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社会調査のデータ分析と基礎用語(社会統計学入門第1回)#放送大学講義録

ーーーー講義録始めーーーー

 

さて、統計分析を始める前に、分析対象となるデータがどのように得られるかを説明します。それは、先ほど述べたように、主に社会調査によって得られます。

社会調査にはさまざまな種類がありますが、ここでは、定型の質問紙を用いた調査、つまり一般的に「アンケート」と呼ばれる形式について説明します。
印刷教材の図表1-2をご覧ください。ここには、調査票に含まれる質問の例が記載されています。

最初の問1では、「あなたの性別はどれに該当しますか?」という質問が提示されています。次の問2では、「あなたは現在何歳ですか?」といった内容が記載され、各質問には番号が付けられています。

調査を受ける人、つまり調査対象者(回答者)は、これらの質問に対して回答を行います。回答方法としては、あらかじめ用意された選択肢から該当するものを選ぶ形式が多く見られます。ただし、質問によっては、選択肢を選ぶのではなく、回答者自身の言葉で回答する形式、いわゆる自由回答形式が用いられることもあります。

たとえば、問3では「あなたの仕事の内容を具体的に記述してください」といった指示があり、回答者が詳細を自由に書き込むよう求められます。このような自由回答も、データ化する際には、似たような回答をひとまとめにする作業が行われます。たとえば、「学校の先生」という回答と「生徒の教育」という回答は、「教員」という1つの職業区分にまとめられることがあります。

社会調査では、1人の回答者に対して、調査票に設定されたすべての質問に対する回答データが得られます。そして、これが回答者全員分集められることで、質問の数×回答者数分のデータが蓄積されます。

たとえば、質問が30問あり、回答者が1000人いる場合、30,000件ものデータが分析対象となります。このように膨大なデータは、適切に整理された形式で保存しておかないと、分析時に効率的に利用することが難しくなります。そのため、社会調査のデータは「回答者×回答内容」という形式のデータセットとしてまとめられます。

印刷教材の図表1-3をご覧ください。ここでは、先述の質問に対して500人分の回答が得られたと仮定した架空のデータが示されています。図表では、回答者ごとのデータが横方向に整理されており、たとえば3行目にあたる最初の回答者のデータには以下の情報が含まれています:

  • 性別:女性
  • 年齢:48歳
  • 職業:美容師
  • 特定の意見に対する回答:賛成

このように各行を横に見ることで、各回答者の情報を確認できます。そして、こうしたデータが500人分縦方向に並んでいます。

ここで、データを構成する要素として、「変数」と「」という用語を説明します。変数とは、対象(回答者)ごとに異なる特性を表す要素を指します。この例では、「性別」「年齢」「職業」「意見に対する賛否」が変数に該当します。

一方、値とは、変数を構成する複数の特性や数値を指します。たとえば、「性別」という変数には「男性」「女性」「その他」の3つの値が含まれます。また、「年齢」という変数には23、35、48といったさまざまな数値が含まれます。ここで注意が必要なのは、「値」という用語は数量だけでなく、質的な特性も含むことです。

質問紙調査票に対応させると、それぞれの質問が変数に、回答選択肢や回答内容をまとめた区分が値に相当すると考えることができます。これらは統計分析の基礎用語として非常に重要ですので、まず覚えておいてください。詳細については次回の講義で説明します。

 

 

 


社会統計学とデータ活用の基礎(社会統計学入門第1回)#放送大学講義録

ーーーー講義録始めーーーー

 

その一方で、データや分析結果を受け取る側にも、それ相応の技量が求められることになります。
ただし、統計分析に関する予備知識がない状態で分析結果を提示されても、それが何を意味するのか十分に理解できないかもしれません。また、集計される前のデータは数値の羅列となっていることが多いため、自分で分析しようとして元のデータを手に入れたとしても、どこから手をつければよいのかわからず、その数値の羅列を前に途方に暮れてしまうかもしれません。

つまり、統計データが広く公開され、身近なものになってきたとしても、それを受け取る側がデータや分析結果を読み取る力を持たなければ、結局は一握りの専門家による結果の解説に頼らざるを得なくなります。

この「社会統計学入門」という科目で扱う社会統計学は、統計学の応用分野の1つであり、主に質問紙や調査票を用いた社会調査によって得られたデータを基に行う統計分析の手法を学びます。

社会調査は、ある社会を構成する多くの人々の実態を捉えることを目的に実施されるため、その調査結果を社会の人々に還元し、広く共有することが重要な意義を持ちます。したがって、先ほど述べたような、一握りの専門家だけに頼る状況は、このような調査の意義を著しく損なうことになりかねません。

統計データが身近になりつつある現在、この講義では、社会調査のデータを活用した統計分析について、その基礎的な考え方や手法を理解し、活用できるようになることを目指して内容を展開していきます。

 

 

 

社会統計学と教育機会格差の分析(社会統計学入門第1回)#放送大学講義録

ーーーー講義録始めーーーー

 

第1回のテーマは「社会調査のデータと統計分析の考え方」です。
人間の行動や心理、経済現象、自然現象など、この世界で生じている様々な現象を数量的に把握する手段として、統計学があります。統計学というと難しく聞こえるかもしれませんが、それは私たちの生活に幅広く応用されています。

特に、この科目で扱う社会統計学を利用した分析結果は、日々接するニュースや記事通じて報道されています。例えば、印刷教材の図表1-1をご覧ください。この記事では、保護者の経済力の違いが子どもの進学機会にどの程度影響しているかを示した分析結果が掲載されています。

図の横軸には保護者の年収額に応じた区分が示されています。具体的には、左側には年収200万円未満、右側には年収1200万円以上という区分があります。縦軸は子どもの高校卒業後の進路に関する比率を表し、大学や短大、専門学校への進学、就職などがそれぞれ折れ線で示されています。

右肩上がりになっている折れ線は4年制大学への進学率を示し、保護者の年収と比例して高まっています。例えば、年収200万円未満の場合、進学率は28.2%であるのに対し、年収1200万円以上では62.8%に上ります。一方、右肩下がりになっている折れ線は就職率を示しており、年収200万円未満では35.9%、年収1200万円以上では5.4%です。

まとめると、保護者の年収が低い場合、高校卒業後は大学へ進学せず就職する傾向があり、収入が高いほど大学などへ進学する傾向が見られるということです。

この例は子どもの教育機会に関するものですが、生活実態調査、内閣支持率、時事問題に関する世論調査、消費動向を分析するマーケティング調査など、社会調査は多岐にわたり、日々行われています。

また、研究機関や研究者が実施した調査データを第3者が二次的に利用できる仕組み、いわゆる「データアーカイブ」も整備されつつあります。さらに、パソコンやインターネットなど情報技術の発達により、データ集計が容易になり、インターネットを通じて集計データを取り込むことも可能です。

例えば、日本国内に住むすべての人を対象とした国勢調査は、5年ごとに実施されています。この国勢調査をはじめ、総務省統計局が実施した調査データはホームページで閲覧可能で、集計データをダウンロードすることもできます。ただし、これらのデータには個人情報が含まれるため、公開時には特定されないよう慎重に加工されています。

このように、統計データの利用機会は一握りの専門家に限られる時代ではなくなりつつあります。より多くの人が調査データにアクセスし、活用できる環境が整ってきているのです。

 

 

リトルワールド展示の意義と分類(博物館展示論第1回)#放送大学講義録

ーーーー講義録始めーーーー

 

リトルワールドの具体的な展示を通じて、展示形態について考えてきましたが、このような形態の分類には明確な定義があるわけではありません。しかし、一定の基準を持つことは、展示を具現化する際にメッセージをどのように伝えるかを考える上で非常に有効です。

展示の根幹に関わる分類として、「ものに語らせる」か「もので語る」かという対比が挙げられます。前者は、単体の資料を中心に鑑賞する展示が典型的であり、後者は構造展示などによって背景や内容を伝える展示です。この対比は展示の基本的な類型であり、今後の議論でも繰り返し登場します。ここでしっかりと理解しておいてください。

これまで、日本には文化人類学の博物館がありませんでした。そのため、リトルワールドの設立は1つの契機となり、その後に国立民族学博物館(民博)や類似施設が誕生しました。民博が先行していた面もありますが、リトルワールドは異なる方向性を意識して運営されました。

民博の運営方針を決定する際には、「新しいものと古いもの」「都市文化と非都市文化」という4つの視点を融合させることが議論されました。文化人類学は伝統的に「古いもの」や「非都市文化」に焦点を当ててきましたが、民博は新しい視点を加えることを目指しました。この考え方はリトルワールドにも影響を与えました。

リトルワールドでは、日本人にとって馴染みのない外国文化を紹介する際、「都市の新しい文化」だけでなく、「古い文化」や「非都市文化」にも焦点を当てることを重視しました。それにより、多様な文化の側面を観覧者に理解してもらえるよう工夫しています。

次回は、リトルワールドの野外展示に焦点を当て、その具体的な内容を紹介します。

 

 

 

神殿型展示と宗教・芸術の魅力(博物館展示論第1回)#放送大学講義録

ーーーー講義録始めーーーー

 

第5室は全体が神殿のような構造をしており、テーマは芸術や芸能、宗教、信仰です。
画像を見ながら、この展示内容についてもう一度詳しく見ていきましょう。

ここでは「呪術」と呼ばれるものや、キリスト教、イスラム教、仏教、ヒンドゥー教といった大宗教が共存する形で展示されています。
展示手法の観点から見ると、単体展示、集合展示、構造展示など、さまざまな方式が混在しています。

また、この展示には「もので語る展示」と「ものに語らせる展示」の両方が見られます。
「もので語る展示」とは、構造展示を通して文化的背景を伝える展示のことを指します。
一方、「ものに語らせる展示」は、展示物そのものの価値を観覧者に見てもらうことを目的とした展示です。

具体例

  1. 神殿中央の展示
    神殿の中心部には、ニューギニアやメラネシアの木彫りや祖先像が展示されています。
    これらは単体展示に分類され、神殿の中心を占める重要な位置に配置されています。そのため、小規模ながら印象的な「小焦点展示」とも言えます。

  2. ニューギニアの集合展示
    ニューギニアの神像や仮面など、さまざまな資料が並べられた展示コーナーがあります。
    これは集合展示であり、比較展示とも言えます。資料の文化的背景を伝えつつ、一つ一つの造形の素晴らしさを楽しんでもらう意図があります。
    この場合、「ものに語らせる展示」としての役割も兼ねています。

  3. 宗教のコーナー
    宗教の展示エリアには、右側にチベット仏教、左奥にヒンドゥー教のコーナーがあります。
    チベット仏教の宗教用具などを展示し、その宗教全体を理解してもらう意図があります。
    この展示手法は「構造展示」となり、文化背景を伝える「もので語る展示」にも分類されます。

  4. ボリビアのカーニバル展示
    ボリビアのウォルロのカーニバルにおける「悪魔の踊り」の展示コーナーがあります。
    一見、似たような資料が並んでいるように見えますが、奥に異なるキャラクターが配置されています。
    全体的に「悪魔の踊り」というテーマを通して構造展示を行っており、文化の全体像を語る「もので語る展示」と言えます。


このように、第5室の展示は階層的なテーマ構成(大テーマ・中テーマ・小テーマ)を活用し、多様な展示方式で表現されています。それぞれの展示手法が、観覧者に深い理解を促しつつ、視覚的な興味を引き出すよう工夫されています。

 

 

 

リトルワールドの価値展示解説(博物館展示論第1回)#放送大学講義録

この紹介はあくまで数年前のものであることに留意されたい(館長も展示も変わっているかもしれない)。

 

ーーーー講義録始めーーーー

 

それでは最後に、第5室「価値の展示室」を見ていきましょう。この大テーマは「心の宇宙」とも言い換えることができ、精神世界を形に表した芸術や宗教に関わる展示が行われています。この展示室は自由動線が採用されており、観覧者が自由に巡ることができます。以下のパース(完成予想図)をご覧ください。展示全体として荘厳な雰囲気を作り出すことを、初期段階から計画していました。

この展示室について、大貫良夫館長にお話を伺いました。


大貫良夫館長のコメント

「第5室は本館で最も広い展示室で、天井も非常に高く設計されています。特に天井の高さは展示の荘厳な雰囲気を高めるため、意図的に階段式の構造にしました。この部屋では、人間の精神世界が作り出したさまざまなものを展示しています。世界中から集めた神々や信仰の象徴、自然や未知の世界を人間がどのように解釈してきたかを、さまざまな形で表現しました。展示を通して、観覧者の皆さんには人間の多様な思索の歴史に触れていただけると思います。」


展示デザインの特徴

展示室のデザインには特に以下の特徴があります:

  1. 高低差を活かした構造
    本館の地形を考慮し、野外展示に続く高い位置にある土地を利用して、階段状の設計を採用しました。この構造は、展示室のテーマである「精神世界」を象徴的に表現し、観覧者に天へ上昇する感覚を与える意図があります。

  2. 神秘的な雰囲気の演出
    周囲には神秘的なアイテムが配置され、展示室全体が神殿のような雰囲気を持つように設計されています。入口を入った瞬間に、これまでの展示室とは異なる厳かな空間に引き込まれるよう工夫されています。

  3. 展示内容の多様性
    宗教、神話、芸術といった人間の精神活動の成果が多様な形式で展示されています。具体的には、神々の像や宗教的なアイテム、自然の観察や考察を通じて生まれた作品が含まれます。


観覧者へのメッセージ

「第5室『価値の展示室』」では、人類が精神的世界で追求してきた問いや答えを、空間全体で表現しています。展示を通して、宗教的信仰や芸術的創造がどのように人々の価値観を形作ってきたかを感じていただけるでしょう。

 

 

 

展示階層性と文化人類学の手法(博物館展示論第1回)#放送大学講義録

ーーーー講義録始めーーーー

 

それでは映像をご覧ください。こちらは第4室「社会の展示室」です。
ここでは人が生まれ、育ち、大人になり、結婚し、亡くなるまで、つまり「人の一生」をテーマに展示が構成されています。
通過儀礼も重要なテーマの1つです。こちらは人が学習したり、遊んだりする様子を展示し、成人式のコーナーも設けられています。

次にこちらは結婚式のコーナーで、バリ島の結婚式が紹介されています。
その後、交易に関する展示へ進みます。交易に使われる製品や社会の仕組みを示す資料が展示されています。
また、リーダーシップをテーマにした展示では、ペルーやニューギニアのリーダーに関連する展示が行われています。
最後にお葬式をテーマとしたコーナーでは、祖先を祀る文化や儀式が紹介されています。祖先を敬うという人間の文化的側面がテーマです。

第4室を例に取り、展示を構成する上で重要な「階層性」について考えてみましょう。
展示には大テーマ、中テーマ、小テーマという階層性があります。これを論文の構造に例えると、大テーマが章、中テーマが節、小テーマが項に相当します。

たとえば、「生まれ育つ」という中テーマには、「育児用具」「子どもの服装」「遊び」などの小テーマが含まれます。
また、「結婚式」という中テーマには、「バリ島」「インド」「アラブ」の結婚式という小テーマがあり、それぞれの文化を展示で表現しています。

具体例を見ていきましょう。
第4室の最初の導入部分では、母子像が展示され、展示室のシンボルマークともなっています。これは「象徴展示」または「導入展示」と呼ばれるものです。
次に中テーマの「生まれ育つ」では、育児用具やゆりかご、子どもの衣装、遊び道具が展示されています。これらは、子どもの成長と学習が密接に関係していることを示しています。

さらに「結婚式」では、中テーマの一例として、バリ島の結婚式が小テーマとして展示されています。
同様にインドやアラブの結婚式も展示され、それぞれが独立した小テーマとして構成されています。

以上、展示の階層性について具体的な例を挙げて説明しました。
「社会」という大テーマは文化人類学そのものと言えるほど多岐にわたる複雑なテーマですが、階層性を意識してストーリーを組み立てることで、メッセージを整理し、伝えることが可能です。

ただし、長文の解説を展示に添えると観覧者が読み疲れてしまうため、解説はできるだけ短くする必要があります。
そのため、展示のメッセージをどの程度読み取れるかは観覧者に委ねられる部分も大きいです。
人によるガイドは非常に有効ですが、対応できる人数が限られるため、映像やメディアを活用した解説が効果的です。