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イージス艦事故と想像力(JMMより)

JMM(http://ryumurakami.jmm.co.jp/)は以前から読んでいるメールマガジンである。毎週月曜日は金融経済のissueについて編集長の村上龍氏が問題を専門家に投げかけ、それについての解答がメールで読める。最近は1週遅れでHPでも読めるけれど、メールだと読み応えがあって面白い。購読されることをお勧めしたい。

月曜発行のメールマガジンの冒頭に編集長のエッセイが掲載されている。いつも面白く読んでいるのだけれど、今日は読んでいて違和感を感じたので紹介してみたい。

3つの段落に分かれている。最初の段落から。

先週、イージス艦「あたご」と漁船の衝突事件で、海自隊員への判決が出ました。少なからず驚いたのは、艦橋両脇のウイングと呼ばれる屋外ではなく、艦橋内で見張りと行っていたことへの上官のコメントです。「降雨は止んだが、ハワイからの帰路で寒暖の差が激しく、隊員の健康を考えて艦橋内で見張りにつかせることにした」というニュアンスのことを上官が話したようです。まるでハワイ観光旅行の帰路についている団体熟年ツアー客の添乗員のようなコメントでした。わたしは平和主義者ですが、ハワイからの帰路で寒暖の差があるので隊員の健康のため暖かい場所で見張りをすることにした、というような海軍が他の国の軍隊に存在するのでしょうか。

ソースは分からないけれど、裁判に持ち込まれているような事案で、ダラケタ印象を与えるような話を上官がするとはとても思えない。「隊員の健康」ということから考えると、見張り員の体調が優れなかったか、船内で病人が多くて調子が悪い隊員でも勤務に狩り出さざるを得なかった、という状況があったのかもしれない。いずれにしろ軍艦の管理としては考えられないことである。失礼ながらガセネタでは?

続いて2段落目と3段落目。発想は面白いからエッセイとしては優れているのだろう。けれど噴飯ものだと感じた。

テロリストや敵艦の攻撃が予想される海域であれば当然そのような脳天気なことはやらないということかも知れませんが、何のために高い税金を使って訓練をしているだろうと思います。ただし、軍人として考えると唖然とするコメントですが、自衛隊を「就職先」と考える若い隊員が多くて、あまりに厳しく対処すると「辞めてしまう」のであれば、民主主義が発達し無知と貧困が減ったことの成果だと言えるのかも知れません。もちろん、漁船の発見が遅れて衝突を起こし犠牲者を出したことは論外ですが、自衛隊員に、辛い訓練や作業をいやがる傾向があるのは、悪いことだけではないような気もします。

無知と貧困の蔓延から脱却した国家では、基本的に国民は、いい意味でも悪い意味でもぜいたくになり、辛いこと、ネガティブなことを嫌がるようになります。「寒かったり暑かったり、そんな中を重装備で長い間歩くのはいやだ」「銃を撃って相手に当たると痛いだろうからそんなことはいやだ」というような自衛隊員は、かっての旧帝国陸海軍兵士よりもはるかに多いのではないでしょうか。頼りないといえば頼りないのですが、テロを除けば、敵の正規軍の侵攻など旧来の戦闘が想像しづらい現状では、案外微笑ましい傾向ではないかと思います。

確かに「微笑ましい傾向」なのかもしれない。説得力はある。けれど海で働いている人間にしてみたら、「部外者が妄言を吐くのもいい加減にしろ」という感想を抱くのではないだろうか。
海上で航行しているのは軍艦だけではない。民間の船舶も多数航行している。そして、自由に舵を取ることが出来る船舶に取り航海の上で最も重要なのは、自らの船を他の船舶と衝突させないことである。このことが出来ない船舶は、そもそも航行が許されるべきではないし、頻繁に衝突事故が起こったのでは、世界中の船舶が動けなくなってしまう。ひいては世界の物流が成り立たなくなる。
今回のイージス艦事故で最も問題なのは、このような海の基本ルールを守れなかったことではないかと考える。これは軍隊がどうとか言うよりも、海で生きる者として相応しくないのではないか、という問題である。筆者は船に乗ったことがないのだろうか?