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都市空間と政治(政治学へのいざない第6回)

「政治」概念を掴むには、きちんと今の社会を生きるしかないのかもしれない。先が見えないので難しいことではあるのだが。

 

東京という都市と政治との関わり。それに加えて、政治自体が都市という関わりで。都市という空間は政治と関わっている。「政治」は中国古典からで、江戸時代にも使われていたが、明治時代から一般に広まる。既に西洋思想に由来するものとして。ポリスが語源、都市。歴史上の起源をたどれば、都市と政治とは密接な関連。自分の済む空間をどう捉えているかが、政治のimageと深く関わる。都市を考えることが政治を考えることに繋がる。庄司薫と安部公房。60年代以降の東京の変容と政治imageの関係。政治をどのように考えるか。
37年生まれの庄司薫。四部作。中公文庫や新潮文庫。主人公庄司薫の周りで事件が。リアルタイムで追う作品が三作だったが、その次の作品までは長かった。連合赤軍事件の衝撃と関連。空白期間の間のことを筆者は明らかにしている。連合赤軍事件。71年に結成された連合赤軍が、軍事訓練で多くの人を殺害。メンバーにリンチを加え14人を殺害する。後に小説や漫画の題材にもなる。60年代の後半からの学生による政治運動を背景に。頂点は全国での大学紛争。四部作は東大闘争が退潮に向かった頃を舞台に。東大志望を断念したという設定。69年の時代状況が作品に濃い影を。社会のラディカルな変革を目指し、或者は新左翼運動へ。誰もが幸福に生きられる社会を願う。集団を組み党派を結成して渦に巻き込まれる。内ゲバや党派内部の粛清に至る。マスコミの出版物は華やかに報道、より過激に。誰もが渦に巻き込まれる。苦しんでいる誰かに手を差し伸べる思いは如何に生き延びさせるか?が主題。他者の救済という願いが相互否定の世界に転落する状況を。連合赤軍事件は現実になってしまう。内ゲバが激しくなり、武装闘争がよりラディカルに。陰惨な暴力が日常生活を脅かす。政治は自民党政権が安定して維持。他者を救いたいという若者の願いは行き先を無くす。庄司薫の沈黙は、大きな社会の変容があるという裏返し。山崎正和による解説。60年代の終りは変化が過激であるが故にわからなくなるという状況だった。どのような変化も重なり合って意味を相殺する。風俗が成り立たず、時代はかえって個性的名前を失う。人々は明確な時代像を見失う。およそ同時代的なものを持ち難くなっていた。社会の変化が急速で、すぐに流れ去り消えていく。社会の変化。近代化の変化は明治以来続いていた。60年代末から速度が高まる。変わっていく社会を根底のところで繋ぎ止めるものも融解して来ている。大衆社会化などとも呼ばれる。60年代末から21世紀まで続いている。東京という都市の変容。新宿あたりにバイタリティというエネルギーが渦巻きを。しかしそれは常識。新宿というのは日本中の田舎から集まる前夜祭みたいな街。エネルギーは、だからどうした?現代ではなく、ただのエネルギーと現代的風俗だけ。最新のファッションなどを求める処。渦巻き。現代にまで激しい。ヒッピー、サイケデリック、アングラ、フリーセックス、フォークゲリラ、などが紹介される。若者が求めて群れる。政治運動も同じ熱気で。東京自体が膨張と変容。
安部公房。大量の人間が行き交う。「燃え尽きた地図」67年に刊行。24年に生まれて、終戦時に文壇デビュー。満州から敗戦で引き上げる。東京で都市の激しい変化を。モチーフにして数多く発表。「砂の女」。そこでは逃げた男が主人公だったが。己の地図を焼き捨てないことには出発できない。都市の時代。東京が目覚ましい拡大。66年に東京の人口は1000万人以上、日本人口の一割以上に。多くの人が都市に移り住む。空間が急速に拡大、人々の行動も変容。互いに名前も知らない他人が行き交う。社会に生きる人も消費社会のなかで無名の一群に溶け込む。マスコミを通して農村部の人間関係にも影響。探偵が街を彷徨う。姿を消してしまった男を探してと妻が依頼。聞きまわっている内に、実直な会社員とは異なる姿が。裏世界の商売に関係したりしていた。人物像は曖昧な謎めいたものに。調査の過程は盛り場の街が風景として登場。調査を進めるにつれて探偵自身の自己イメージも曖昧なものになり、アイデンティティを失う。探偵自身が失踪者になることを暗示して物語は終わる。姿を消してしまった男の人生はどうなった?「箱男」。段ボウルの箱を頭からすっぽりとかぶる。箱男の噂は?僕一人ではない。日本各地でかなりの人間が潜んでいる。しかし話題にはなっていない、箱男については固く口をツムんで居るのが世間。他人が箱男の顔を伺うことが出来ない。箱男は実在しているが、どんな人物なのか知るすべはない。人間の属性を示す。世間が箱男に知らぬふりをする。箱男になっている?都市空間と政治に関わる小説。現代世界におけるデモクラシー原理。5年にわたり推敲。民主主義の原理を突き詰めると、みんなが箱男になってしまう。国家権力はある一人の人物により情報を登録している。箱男は登録を拒絶する。国家権力にとって強く警戒する。画一化された人間ではなく、主体性をまた取り戻す。国家権力による統制を跳ね返すデモクラシーが可能に。新しいデモクラシーは何処かで心の中で夢として抱いている、不可能だけど。比喩として言えば、箱男は現代社会においてバリエーションの増加を。netや公園のホームレス。引き籠もり。見えない存在に溢れた現代社会。政治の世界を切り開くこと。敢えて希望は語らないが、絶望も語っていない。デモクラシーの夢を。都市に生息する箱男によるデモクラシー。60年代の東京に政治の原点を。「燃え尽きた地図」の設定地は巨大な団地。そこから消息を絶つ。団地の近くへ失踪者の群れへ探偵は合流する。団地のモデルは東京の西部の杉並区の団地。かつては農地が広かったが、宅地開発で団地が次々と開発、通勤者の街へ。地主農民商店主が秩序を支えていたが、団地で新しい人々が新しい関係を。社会は激変。郊外が様々に変わる。旧住民が知る自治会から新住民が働きかける自治会に。原水爆禁止の署名運動や安保改定反対の署名運動。地域民主主義の新しい動き。市民型人間型。松下。市民的自発性の発生。以前よりも余暇の時間を持ち、結果として自発的に新たな人間関係を築き、政治に関与。市民運動の理論的根拠に。ごく普通の市民が現状を変えようと働きかける。デモクラシーは新たな段階に。西洋文化の古代の共和政治の市民的特性が日本に定着。日本は近代化してきたが、一人ひとりは成熟せずに政府に依存。都市化で市民的特性を可能に。ポリスは政治の営みを発見した。共同の政治を営むという政治の形。現代の都市においても工夫するならば何時でも再生しうる。ハンナ・アーレント「人間の条件」。政治はひとりひとりの人間が、自分が誰であるか焼き付ける。顔の見える個人同士の付き合いとしての政治。安部公房の箱男。現代の日本において、政治に希望を抱くimageは両極を揺れ動く。都市空間を考えることは政治を考えるということ。都市化した社会で如何に生きるかが、政治を考えるのに重要。

 

政治学へのいざない (放送大学教材)

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