マズローという学者が各種の欲求を段階にして示したものが欲求の5段階モデルであるとされる。ただマズロー自身が階層化したわけではなさそうである。他の学者が定式化することはよくあるので、階層化したのも別の人間らしい。土台の方から生理の欲求、安全の欲求、社会的欲求と愛の欲求、承認(尊重)の欲求、自己実現の欲求の5つになり、下位の欲求が充足してその上の欲求が発生する、とされる。しかしマズロー自身がそのような粗雑な議論をしたとも思えない。当然ながら生理の欲求には食欲や睡眠欲も入るけれど、それが満たされなくても自分が好きな人の気を引きたいとディナーで我慢することはあるし、命を失っても故郷に尽くそうと軍艦に飛び込んだ特攻隊の話は誰でも知るところであろう。つまりは階層化すること自体がナンセンスの極みであろう。しかし大学の心理学の講義で、もっともらしくこのような議論が展開されたのには呆れるしか言葉がなかった。まあ騙す道具としては有用なのかもしれないが、近寄りたくはない対象。