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ブロンテ『嵐が丘』(ヨーロッパ文学の読み方近代篇第4回)

概要を掴んでから翻訳を読むべきなのだろうけど、小説として楽しいものになるのだろうか。

 

大橋洋一。ブロンテ「嵐が丘」。アメリカの劇作家。ジョーカラコ。01年の初演。日本でも翻訳され上映。厳格なカトリック系の男子寄宿学校の学生4人が夜寝静まった後にロミオとジュリエットを役を変えながら最後まで演ずる。とにかく興味深いのは少年たちの夜の世界。昼間の抑圧的世界から解放。欲望と妄想とを全開させる世界とシンクロする。禁断の書物扱い。卑猥な表現。破滅的な筋書き。男子校の妄想の世界と同じ世界が。ロミオに一体化し自由な恋愛を味わいつつも拘束されている自分の境遇が境遇がジュリエットのそれに近いことを確認。とにかく異性愛であれ同性愛として恋愛感情の受け皿がジュリエットに。男性と同じ運命を生きる人間として扱う。対極になるのは嵐が丘。演劇にすれば、全員女性にすれば心を掴まれる。嵐が丘ではヒースクリフが女性の憧れの的、冷酷で残忍な。人気に。復讐の鬼だが死後も一人の女声を愛し続けるロマンティスト。マッチョで粗暴な彼は女性にとり抑圧的で危険な存在。そういう悪に女性は惹かれるという俗悪な常識的な。女性が演じればヒースクリフは安全だが危険という不思議な魅力を発する存在に。危険の体現者。ヒースクリフを女性が演じるという仮定でだが。女子校で「嵐が丘」という漫画。ヒースクリフ役の女性は憧れの的と。そこから嵐が丘が刺激する呼び寄せる欲望の在り処が見える。
作品の概要を。ロミオとジュリエットや嵐が丘。どちらもタダの純愛で完結しない不純なハイブリッドな。嵐が丘は語り手が2人いる。2つの語りそのものがそれぞれ主観性をこれでもかとちらつかせ真実に責任を持たない。語られる出来事も時間的に前後しているので語りは真実と偏見とが混淆している。語りに読者は戸惑うがそれこそ読書体験の中心になり作品の意味の忘れてはならない出発点に。少しでも緊張を緩めるには作品の概要を。作中の人間関係と出来事を整理するのを先に。系図。人名がローマ字表記だが。年表。ヒースクリフはリントン家の側の一番右に。元々は当主の孤児で嵐が丘に暮らし続け息を引き取る。読みながら確認するために系図を。小説を読む前では複雑さが。2つの家が。この小説は2つの世代に跨る。順に進行するのではなく、過去と現在を行き来する。1757年夏。62年。65年夏。1771年夏。ヒースクリフが推定で産まれる。嵐が丘に連れてこられる。74年。75年。キャサリンとヒースクリフは屋敷を訪問してリントン家に滞在。フランシスが死去。ヒースクリフは嵐が丘を去る。冷遇など。83年3月。キャサリンは結婚。9月にヒースクリフが資産家となって帰ってくる。ヒースクリフの結婚。キャサリンの兄が死去。91年イザベラ死去。1800年。キャッシーは。01年。キャッシーはリントンと結婚。語り手の一人がスラッシュクロスを去り嵐が丘に訪問。02年。ヒースクリフが死去。03年。この年表だけでは初めての読者には混乱するだけかも。無味乾燥な事件だけしかわからない。劇的な。かいつまんで物語を。ヒースクリフを連れ帰る。キャサリンと強い絆で。キャサリンが結婚へと踏み切るとヒースクリフは嵐が丘を去る。3年後に紳士となって帰り復讐を。破滅させられる。腹いせとして結婚相手にイザベラを。ヒースクリフはエドガーとキャッシーとを結婚させる。法的な相続のため。復讐の完了。虚しさを感じて死去。ヒースクリフが君臨した嵐が丘などの相続。原題の英語は嵐が吹きすさぶ。英語の小説のタイトルとして異様。魅力の一端。マザリングハイツを和風に翻訳した時から日本での人気は決定づけられる。作品の様々な特徴を紹介しつつ触れたかった問題が2つ。後半部の問題。人気作品で色々な映画化やスピンオフした小説も。全てではないが殆どが後半部を無視している。キャサリンとヒースクリフとの愛で終始。後半部は出てこない。しかしキャサリンが死んでも延々と続く。後半部をどのように考える?語り手のロックウッドが見る異様な夢。様々に解釈されてきた。私自身の考えを。その解釈だけが全てではないが。考えるヒントに。
小説を読んでいないと何の話と訝ってしまう。小説の中で有名なキャサリンの言葉を。家政婦から幼い頃から仲の良かったヒースクリフと別れたとき。本当に好きな人とは結婚しないという激しい吐露を。ヒースクリフのこと。他の全てが滅んでも彼が生きていれば生きながらえる。失うと全宇宙がよそよそしいものに。リントンに対する私の愛は森の木の葉のようなもの。ヒースクリフに対する愛は地下の永遠の岩。私はヒースクリフなの。愛の全容の。リントン。一過性で結婚という制度に。ヒースクリフ。双子のように慣れ親しんだ。親族同様の深い絆で。ヒースクリフが恋心を抱いても彼女は家族にしか思えない。私はヒースクリフ。深く異様なものを。生まれも性別も異なるが同じだと。出自などを越えた共通点があるから。幼年時代へのノスタルジアを根幹に触れる神秘的な。共有するように思えるのは似ているから。気性が激しい。好人物ではなく攻撃性を持つ。キャサリンが一体感を求めて止まないのは男根羨望を。フロイトの用語。キャサリンとヒースクリフは弱さでも。孤児であり不遇な。ファミリーネームがわからないヒースクリフは格下。男性中心社会での女性と同じ境遇。特異な境遇のために女性と連帯できる境遇を。ロミオとジュリエットにあらわれているが、結婚は境遇からの解放。解放者としての様相。夫は解放者であるとともに男性中心社会の一員。結婚は罠であり監獄の刑務官。ヒースクリフにも。イザベラは落胆して家を出る。ヒースクリフは家庭なき荒野へと。ヒースクリフが見せる残忍なことに面影はないが、破壊者として守護神に。ヒースクリフの2面性は本当に女性であったのならば明確に受け止められたかもしれない。演劇が女性の受け皿となるファンタジーとして。
同一化の欲望と所有の欲望。西洋の思想に於いては峻別。ペットを所有する欲望。馬と一体化するガリバーと違う。人間の場合自分の同性と一体化するのは異性愛者。男性と結婚して家庭を持ちたい。男性に所有したい所有されたい。女性のようになりたい、一体化したい、男性を所有したい所有されたい。異性と同一化しようとしたら同性愛者。キャサリンは同性愛者。対象となる女性が一人も居ないが。キャサリンは男性としてのヒースクリフと一体化。女性が自分以外に居ないので対象は自分自身に。男性を所有する所有されたい、異性愛。同性愛的欲望が共存。キャサリンの愛の楕円の中にある2つの中心。共存させる?キャサリンと結婚できなかった。キャサリンの死後は復讐の挙に。語り手に発する第一声。スラッシュクロス屋敷は私のものだと。2つの屋敷を手に入れ敵対してきた両家の人間を破滅させる。しかし埋め合わせにはならない。同一化したキャサリンとの関係を失ったとき、所有の欲望を暴走させるしかなかった。しかし耐え難いものに。喪失は幽霊のように身近に。死こそが救い。埋葬されることでキャサリンと一体化。ヒースクリフは復讐行為の中で旧秩序を破壊し新秩序への下地を作る。孤児は荒ぶる破壊神の如く。再生の花を咲かせる。嵐が丘の。歴史は繰り返す。悲劇として喜劇として。死なずに後半部に登場しているかのように。反復を強調。悲劇の傷は秩序の回復に向かう。作品で示されているのは情念の強さと欲望の衝突。
この作品を最後まで読まれれば問い直してほしい。ネタバラシにはならないが。墓の周囲を歩き回りかすかな嵐が。静かな大地に眠る人の。読者の気持ちが安らかにならないと想像できようか。覚醒して問いただす。あの夢はどうなったのか。不可解な夢で始まり安らかな夢への言及で円満に閉じられたのかのように思えるが。安らかな夢と別れを。スラッシュクロスのヒースクリフに会いに行くところからはじまる。ロックウッドは寝室にあてがわれ夜三回不思議な夢を見る。作品の内容に関わると予想されるが、最後まで読んでも見えてこない。定説は出来ていない。その後展開する物語の予測。落書きの方。キャサリンヒースクリフ、キャサリンリントン。謎めいた人名は最後まで読めばヒースクリフの運命。仲良くなりリントン家に嫁ぐ運命を。キャサリンの蔵書の日記の断片。キャサリンの名の落書きは至るところに、並んでいるわけでもない3つの名前を取り出したに過ぎない。予告編でもなく秩序というよりカオス。それから浮上した予言的名前を重視するか偶然で無意識とみなしカオスなものとみなすか。小説そのものの運命にも思われる。小説の物語そのものが運命とシンクロ。発表の意図がなかったエミリーの原稿が出版の運びに。孤児として見捨てられたままだった?ヒースクリフと同様に拾われ侵入者であり両性を。原稿そのものがブロンテ姉妹の中に少女吸血鬼のように入ってこようとする。それは成功する。この小説は世界の闇、物語化されないリアルの世界に開かれる。外部の不条理に通じる。夢自体が外部に居たヒースクリフそのものに。2つの世界。生きている人間の世界と生きている幽霊の世界。オカルト的な超常現象ではなく抑圧され孤児となっても家族の中に入り込もうとする。ヒースクリフ。実体が幽霊のように。ロマの人々やアイルランド人や女性を迎え入れることは秩序を乱すが。ヒースクリフ自身が破壊的要素。その後で再生のドラマが生まれないと誰が断言できるか。幽霊に開かれることが。

 

ヨーロッパ文学の読み方-近代篇 (放送大学教材)