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ストレンジ・シチュエーション手続きでアタッチメントの個人差を評価。(発達心理学特論第6回)♯放送大学講義録

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アタッチメントは、ある年齢になれば一様に成立するというものではありません。安定したアタッチメントを形成している人、そうではない人など、アタッチメントには個人差があり、不安定なアタッチメントの場合、それに対する介入が必要になります。

このようなアタッチメントの個人差を見る方法として考案されたのが、ストレンジ・シチュエーションの手続きです。ボウルビィの弟子であるエインズワースが、アフリカのガンダ族の親子を観察していた時、欧米文化の影響を受けないアフリカの子供たちも、欧米文化圏の子供たちと同じような行動を取ることに気づきました。例えば、初対面のエインズワースに対して顔を背けたり、母親の膝に顔を埋めて母親から離れないようにする行動などです。そこで、どの文化圏の親子にも適用できるアタッチメントの個人差を捉える方法を考えました。

「ストレンジ」というのは「初めての」「なれない」という意味で、親子が初めての実験室で、初めて会う見知らぬ人がいる状態でどのような行動を取るのかを見るものです。全部で8つの短いエピソードがあり、2回の親子の分離と再会の場面が含まれています。1回目の親子の分離では、子供は見知らぬ人と部屋に残されます。2回目の分離では、子供は1人で取り残されます。子供にとってだんだん負荷が大きくなるような構成になっています。親子の分離の際に苦痛を示すかどうかをまず見ます。苦痛とは、ディストレスなどの不快を示す反応を意味しています。

そして、親子の再会、つまりお母さんが戻った時の反応を見ます。これによってa、b、cの3つのタイプに分類します。

親との分離に際して泣いたりせずにそれまでの遊びを継続し、親がいなくなってもあまり気にしない子供の場合、親が戻っても特に大きな変化は見られません。このタイプをaタイプと言います。親がいなくなると泣いたり、後追いをしたりし、親が戻ってくると親に抱きつき安心した様子を見せるのをbタイプと言います。そして、親がいなくなると泣いたり後追いをしたりするのに、親が戻ってきても怒りをぶつけるのをcタイプと言います。

このうちbタイプは、親が安全基地として機能しており、親がいなくなれば不安になり、親がいれば安心できることから、安定愛着型と言われます。aタイプとcタイプは、いずれも親が安全基地として機能しておらず、不安定愛着型と言えます。aタイプは、親がいなくてもいても寄り所になっておらず、回避型と呼ばれます。cタイプは、親への葛藤的反応が見られ、親がいても安心できないことから、アンビバレント型と呼ばれます。abcは行動の分類上の記号としてアルファベット順に名前を付けたものです。

当初はこのa、b、cの3分類でしたが、のちにdタイプが加えられました。dタイプは、親との分離の時に親の後を追いかけるわけでもなく、部屋の真ん中に突っ立ったまま固まってしまう状態などで、明らかに不安を示すのですが、親への明確な接近行動として現れないために、どう解釈してよいかわからないとされた子供たちでした。再会の時にも親に飛びつくわけでもなく、混乱した反応が見られるために当初は分類不能とされていましたが、のちにその中に高い確率で虐待を受けている子供がいることがわかりました。分離再会で示す反応の混乱は、虐待による行動として理解され、dタイプは無秩序・無方向型と呼ばれています。

エインズワースは、ストレンジ・シチュエーションの手続きをどの文化の子供たちにも適用可能なアタッチメントの個人差を示す手法として考えました。エインズワースの元々のアメリカでのデータでは、bタイプが60から70パーセント、aタイプが20パーセント程度、cタイプが10パーセント程度でした。さらに他の文化圏のデータも加え、まとめた結果を見ると、文化圏によって分布に違いがあることがわかりました。日本はcタイプが多く、ヨーロッパはaタイプが多い傾向が見られました。また、その他とされているのは、dタイプが含まれています。

ストレンジ・シチュエーションは、子供が日常経験する範囲のマイルドなストレスの中で、親への行動をどう示すかを見るものです。一口にマイルドなストレスと言っても、どのような日常かによってストレスが異なることが考えられます。日本の子供たちは、家で養育している場合、生後1年頃に親と分離すること自体、日常ではあまり経験することがなく、家の中でもオープンスペースが多いことから、別の部屋にいても親の気配がわかったり、すぐに顔を見ることができる範囲にいます。欧米圏の子供は、1歳頃でもベビーシッターに預けられたり、子供部屋があって親と離れた場所で過ごすことも日常的に起こり得ます。

ストレスの意味するものによって、その表現の仕方が異なることが考えられます。aタイプやcタイプは不安定なアタッチメントとされますが、単に不安定というよりも、それぞれの子供が置かれた状況の中での適応の一つの表れと理解することができます。aタイプの子供は、親の応答性や親からの信号が当てにならないという経験の中で、親を頼らずに自分で調整することを学んだとも考えられます。また、cタイプの子供は、親と一緒にいても不安が解消されないことから、より一層強く信号を発し、自身の不安な状態を伝えているとも言えます。その意味で、aタイプもcタイプも確かに不安定なアタッチメントかもしれませんが、子供にとっては一つの適応のあり方であるとも言えます。

これらに対して、無秩序・無方向型のdタイプの子供は、自身の不安を伝える術そのものを持っておらず、表現することを奪われているとも言え、その点でより状況は深刻であると考えられます。