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老年期支援と認知症予防(発達心理学特論第14回)#放送大学講義録

-----講義録始め-----

 

さて、ここまでは老年期の発達課題を概観してきました。老年期の心身の老化に対する支援としては、認知機能の低下に対応する認知リハビリテーションが挙げられます。また、エリクソンによる老年期の発達課題である統合対絶望、喪失体験とそれに伴う抑うつなどの老年期のメンタルヘルスに対しては、心理療法としての回想法が挙げられます。ここでは、この2つを取り上げて、心理職が行う老年期支援の役割を考えてみたいと思います。

老年期の認知機能の低下は、老化に伴う正常な老化と認知症に至る病的な老化が関係します。先に述べたフレイルは身体機能の低下に伴うものですが、フレイルと認知機能障害は共通の要因を有するとの指摘があります。老年期の機能障害の代表は認知症と言えるでしょう。

認知症という用語は、厚生労働省から通達された行政用語です。その前は痴呆と呼称されていました。英語ではデメンティアと表記されます。しかし、DSM-5からはデメンティアという呼称からニューロコグニティブディスオーダー(神経認知障害群)に変更されました。その診断基準は、認知領域において以前の行為水準からの有意な認知の低下があり、日常生活において認知欠損が自立を阻害することです。認知領域の障害は、複雑性注意、遂行機能、学習や記憶、社会的認知などが障害されることであり、それによって日常生活、社会生活に支障をきたし、他者の支援が必要になる状態です。

また、認知症の診断基準は満たしていないが、認知機能が正常とは言えない状態にあるものを軽度認知障害(MCI)と言います。MCIは認知症に移行する危険位置とされていますが、MCIの状態によっては30から40パーセントが認知機能が正常領域に改善、復帰しています。認知症の発症率は4パーセントから20パーセントで、認知症予防のための認知機能低下予防及び改善の取り組みの重要性が指摘されています。

認知症予防としての認知的介入による支援は、健常高齢者への介入の場合、近年、国立長寿医療研究センターが開発した運動と認知課題(計算や距離など)を組み合わせたコグニサイズがあります。効果については、MCI高齢者に対し、6か月間、週2回、1回90分、計40回の介入を実施し、対象群との介入前後の認知機能の変化を検討した結果、介入群で認知機能の低下を抑制する可能性が示唆されました。この評価には、ウェクスラー記憶検査が使用されていました。

認知症予防の介入は、例えばアメリカの健常高齢者への介入のように、ランダム化比較試験(RCT)により大規模かつ長期的な介入研究が求められています。それは、認知症予防の効果評価の難しさにも関連すると言えます。認知症予防における心理専門職の役割はまだこれからと言えます。研究面では、効果評価は認知機能や記憶機能を評価する心理検査によるので、その実施者としての役割が生じます。一方、これまで個人援助面接が中心であった心理専門職にとって、健康な高齢者の集団に関わる支援には、個別支援とは異なる技能と経験が必要になると言えるでしょう。