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日本の博物館経営論の進展と課題(博物館経営論第1回)♯放送大学講義録

-----講義録始め-----

 

この節では、我が国の博物館経営論の進展の経緯を概観するとともに、現時点での課題を考察します。

冒頭において、日本において博物館の経営の重要性がとりわけ叫ばれるようになったのは1990年代と説明しました。この年代には、次のようなことがありました。1つは、1995年に日本ミュージアムマネジメント学会が設立されたことです。

同学会の創刊号で、当時学会長だった大堀哲氏は、創刊の言葉において、この学会における研究領域と設立目的を以下のように記しています。研究領域としては、法律、経営、心理学、教育学、情報学、マーケティング、マスコミュニケーション論など、多岐にわたる内容を組み入れたミュージアムマネジメント学研究領域を設定しています。また、大堀氏は、1997年に刊行した『博物館学協定』の中で、博物館経営論の章を担当しています。

その構成は第1から第10節まであり、博物館行財政制度、ミュージアムマネジメント、博物館の職員と組織、博物館人材の育成、博物館ボランティアの育成、ミュージアムショップ施設設備、各種団体の組織と運営、博物館の国際機構、博物館における危機管理といった内容です。これにより、博物館経営論が扱う範囲が明確に示されています。

一方、この時期に博物館学芸員制度の改正が行われ、この学会設立の2年後の1997年度から、必須科目である博物館学の各論の1つとして博物館経営論が一単位加わりました。なお、博物館経営論はその後2012年度から二単位に拡充され、現在に至っています。

その際、この科目の狙いは、博物館の形態面と活動面における適切な管理運営について理解し、博物館経営に関する基礎的能力を養うことと定められ、以下の3つの柱と項目がこの科目で教えるべき内容として示されました。ここでは柱だけを説明しますが、1つ目が博物館の経営基盤、2つ目が博物館の経営、3つ目が博物館における連携です。このことは、博物館に関する制度上の大きな進展であったと言えます。

このように、博物館経営に関わる領域を研究する学会の設立及び博物館学芸員資格の取得に博物館経営論が必須になったことなど、1990年代は博物館経営論の重要性が叫ばれた時期と捉えることができるでしょう。

では、2000年以降今日までの間、博物館経営論の構築や研究内容においてどのような進展があったでしょうか。実は、様々な課題があり、それが解決されないままであることが、2012年に発表された平井宏典さんの論文『日本における博物館経営論の構築に関する現状分析』からわかります。ここからは、平井さんに論文発表後の進展や課題も含めて対談で語っていただきます。なお、第3節の「持続可能な博物館経営に向けて」は、皆さん印刷教材をお読みください。