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公立博物館の財政問題と研究状況(博物館経営論第1回)♯放送大学講義録

-----講義録始め------

 

それでは、公立博物館はその設置者である地方自治体だけでなく、納税者や社会に対して広くその苦しい財政状況をしっかり説明できていると言えるのでしょうか。

厳しい言い方をすれば、十分な説明ができているとは言い難いのが現状です。

そうですか。はい。

少し厳しいですが、私が全国の都道府県立博物館の財務分析を行いました。日本博物館協会が発行している全国博物館園職員録に記載のあった都道府県立館289館について調べました。そのうち、各館が発行している年報がウェブ上で閲覧でき、収支(つまり入ってくるお金と出ているお金)がきちんと明示されていたのは55館だけでした。都道府県立館であっても、約2割しか自分たちの収支データを公開していないということです。このような現状では、しっかりと説明できているとは言い難いです。

また、単に収支のデータを公表していても、納税者がその数字から博物館の厳しい財政状況をどこまで理解できるかは疑問です。東京都写真美術館の年報を見ると、支援会員数と会費収入の推移や予算額に占める自主財源の割合などが20年以上の時系列データで見られます。博物館の財政状況をきちんと理解してもらうためには、公立館として情報公開と説明責任にもっと積極的に取り組む必要があると感じています。

なるほど。今例が出てきた東京都写真美術館は、非常にしっかり説明していると言えますね。でも、実際には収支が明示されているのは55館しかないというのは非常に少ない数だということがわかりました。

さて、この博物館の財務状況に関する研究はこれまでどのようなものがあったのでしょうか。

はい。日本に限定した話になりますが、学術情報を検索できるデータベースサービス「CiNii(サイニ)」というものがあります。研究者はよく使いますが、博物館と財務を組み合わせてキーワード検索してみると、経営学または経済学に基づく財務情報に関する研究はほんの数件しかありません。この状態だと、残念ながら先行研究はほとんどないと言っていいでしょう。

その原因は何でしょうか。やはり財務情報に関する比較可能なデータがないことが挙げられます。企業会計では、財務情報の作成の仕方は厳密なルールによって定められています。それは、企業ごとに好き勝手な数値や指標で自社の業績を表していると、投資家が適切な判断ができないからです。一方で、博物館は公立館であっても直営、独立行政法人、地方独立行政法人、指定管理者制度など経営形態が様々で、監督も多様なため、一括りにすることは非常に難しいと言えます。

このことから、我が国の博物館の財務情報に関する研究は、依然として蓄積が進まない現状にあると言えます。