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婚姻費用分担と算定方式の解説 概要:(人生100年時代の家族と法第4回)#放送大学講義録

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ここからは、1つ目のテーマである婚姻費用分担についてお話しします。婚姻費用とは、日常生活を維持するために必要な費用のことを指します。一般的には生活費と呼ばれるものです。民法760条では、「夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する」と規定されており、日常生活に必要な費用は夫婦で分担しなければなりません。

夫婦のうち収入の多い方は、少ない方に対して自分と同等の生活をさせる義務を負います。これを「生活保持義務」と言います。そして、この婚姻費用には、未成熟の子供の生活費も含まれます。未成熟の子供とは、経済的に自立できていない子供を指します。未成熟の子供に該当するかどうかはケースバイケースであり、一律に何歳までが未成熟の子供に該当すると断言することはできません。例えば、中学校を卒業して就職し、それによって得る給与で自立生活を送っている場合は、未成年であっても未成熟の子供には該当しないと考えられます。一方、成人していても大学生である場合は、通常は経済的に自立していないため、未成熟の子供と言えるでしょう。

夫婦が不仲となり、双方が離婚を望み、話し合いで早急に解決できる場合、同居したまま離婚に至ることもあります。しかし、夫婦の一方が離婚を拒否している、または離婚には同意しているものの、夫婦共有財産の精算で合意に至らないなどで、すぐに離婚に至らない場合もあります。離婚を意識するほど不仲な相手と同居を続けることは、精神的な苦痛を伴うのが一般的ですので、特別な事情がない限り、夫婦のどちらかが同居していた住居を出ていき、別居することになります。この別居の期間中も、収入の多い方は少ない方に対して自分と同等の生活をさせる義務を負いますので、婚姻費用を支払わなければなりません。同居であっても別居であっても、収入の多い方がこの生活保持義務を負うことに変わりはありません。婚姻費用について夫婦の協議が整わない場合は、家庭裁判所に婚姻費用分担調停もしくは婚姻費用分担審判を申し立て、その手続き内で解決することになります。

実務では、平成15年(2003年)に裁判官らのグループが研究した結果に基づいて作成された、標準的な養育費・婚姻費用の額を簡易かつ迅速に算定するための「標準算定方式・算定表」が広く活用されてきました。そして、令和元年(2019年)には、基礎となる統計資料を更新するなどした「標準算定方式・算定表 令和元年版」が公表されました。ここでは、未成熟子の有無、年齢および人数に応じた複数の算定表が用意されています。該当する算定表で婚姻費用を支払う義務を負う者、つまり義務者の年収の線と、支払いを受ける者、つまり権利者の年収の線が交差する点に記載されている金額が、婚姻費用の標準金額となります。

例えば、夫が自営業で年収600万円、妻が会社員で年収300万円、夫婦の間に10歳の子供が1人いると仮定します。この場合、まず左側の義務者の年収欄の「自営」で600万円に近い数字を見つけ、そこから右に向かって線を引きます。次に、下側の権利者の年収欄の「給与」でちょうど300万円のところから上に向かって線を引きます。両方の線が交差する点は「12万円から14万円」の帯の半分より下にありますので、婚姻費用の標準金額はおおよそ12万5000円から13万円であるとわかります。