F-nameのブログ

はてなダイアリーから移行し、更に独自ドメイン化しました。

離婚原因と裁判の要件解説(人生100年時代の家族と法第4回)#放送大学講義録

-----講義録始め------

 

では次に、2つ目のテーマである離婚についてお話しします。日本では、夫婦の間で話し合って双方が同意すれば協議離婚が成立しますが、双方の同意が得られず協議離婚ができない場合でも裁判離婚が認められています。ただし、離婚裁判の前に離婚調停を経なければならないルールがあることは、先ほどお話しした通りです。

民法770条1項では、1号から5号に列挙されている離婚原因、つまり離婚を正当とする理由がある場合に限り、裁判所に離婚の訴えを提起することができると規定しています。では、各離婚原因を具体的に見ていきましょう。

1号は「配偶者に不貞な行為があったとき」と規定しています。不貞な行為とは、配偶者のある者が自由な意思に基づいて配偶者以外の者と性的関係を結ぶことを指します。配偶者以外の者と親密な関係にあるものの、性交渉がない場合は不貞行為には該当しません。ただし、後でお話しする5号の「婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」に該当する場合には、離婚が認められる可能性があります。ところで、平穏な婚姻生活を害するのは、異性間の性的関係だけではありません。配偶者のある者が同性の者と性的関係を結んだ場合も、平穏な婚姻生活が破壊されるため、離婚の原因となります。

この同性間の不貞行為については、名古屋地裁昭和47年2月29日判決では、当時の時代背景から「性的異常」と捉えられました。そのため、1号の不貞行為の問題ではなく、配偶者の「性的異常」が婚姻を継続し難い重大な事由に該当するか否かとして、5号の問題として処理されています。しかし、その後、時代の流れに伴い、東京地裁平成16年4月7日判決では、不貞行為とは「異性の相手方と性的関係を結ぶことだけでなく、同性の相手方と性的関係を結ぶことも含まれるべきである」として、同性間の不貞行為も1号に該当するとしました。

2号は「配偶者から悪意で遺棄されたとき」と規定しています。悪意の遺棄とは、民法752条が定める義務、すなわち正当な理由なく夫婦の同居、協力および扶助の義務に違反する行為を指します。

3号は「配偶者の生死が3年以上明らかでないとき」と規定しています。生死が明らかでないとは、生存も死亡も証明できない場合を指します。配偶者と連絡が取れなくても、住民票をたどれば住所がわかる場合や、居場所が不明でも生きていること自体が明確に分かっている場合は、生死が明らかでないには該当しません。

4号は「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」と規定しています。強度の精神病が何であるかを断定することはできませんが、例えば統合失調症や双極性障害などに罹患し、意思の疎通が難しい状況にあるとすれば、それは強度の精神病に該当すると思われます。そして、回復の見込みがないとは、相当期間治療を継続してもなお回復の見込みが立たないことを指します。

ところで、裁判所は、この精神病による離婚について、4号に該当する事由に加えて、具体的な配慮を講じることを求めています。つまり、要件を厳格にしているわけです。最高裁昭和33年7月25日判決は、「民法は、単に夫婦の一方が重度の精神病にかかったことだけをもって直ちに離婚の訴えを認めるものではなく、たとえそのような場合であっても、諸般の事情を考慮し、病者の今後の療養生活等についてできる限りの具体的な措置を講じた上でなければ、直ちに婚姻関係を廃絶することは不適当と認め、離婚の請求は許されないと解すべきである」と判示しました。この判例に対しては、「離婚請求者に経済的余裕がない場合には、不可能を強いるものである」として、多くの学説が批判的です。

その後、最高裁昭和33年判例を前提としつつも、具体的な措置の内容を軽減した判例が現れています。最高裁昭和45年11月24日判決では、妻が重度の精神病にかかり、回復の見込みがなかった事案において、妻の実家の資産状態が良好であった一方、夫は生活に余裕がないにもかかわらず、過去の療養費について支払いを完了し、将来の療養費についても可能な範囲で支払いを行う意思があることを表明したことを考慮し、夫の離婚請求を認めました。