-----講義録始め-----
「では、まず、非正規雇用の問題についてお伺いいたします。2018年の働き方改革では、本講義でも触れた長時間労働を是正するための仕組みが設けられましたが、加えて、正社員と非正社員の間にある処遇格差を是正することも目指されました。この処遇格差の問題を是正するために設けられた仕組みについて、簡単にご紹介いただけますでしょうか。」
「はい。働き方改革では、長時間労働の是正に加えて、正規労働者と非正規労働者の間の待遇格差の是正が大きな柱となりました。ここで、正規労働者とは正社員を指し、非正規労働者には短時間労働者(パートタイム労働者)、有期契約労働者、そして派遣労働者の3つのタイプが含まれます。この非正規労働者と正社員の間の待遇格差を是正するために、2つの法律が設けられました。1つはパートタイム・有期雇用労働法で、これはパートタイム労働者と有期契約労働者を対象としています。もう1つは、改正労働者派遣法で、派遣労働者に対する待遇の是正を定めました。
この2つの法律で、パートタイム労働者、有期契約労働者、派遣労働者と正社員との間の待遇格差を是正することが重要な内容となっています。そのポイントは2つあります。1つは、不合理な待遇格差を禁止すること、もう1つは、企業に対して格差の内容と理由を労働者に説明する義務を課すことです。この2つによって待遇格差の是正を図ろうとしています。」
「年功序列的な賃金制度を有している日本では、いわゆるヨーロッパでよく言われる「同一労働同一賃金」の原則を適用するのは難しいとされています。そのため、日本では不合理な処遇格差を禁止することに重点が置かれているという理解でよろしいでしょうか。」
「そうです。法律を見ると、例えばパートタイム・有期雇用労働法の第8条には、「不合理な待遇の相違を禁止する」と明記されています。不合理かどうかを判断する際には、個々の待遇ごとに、その性質や目的に照らして不合理性を判断することが基本です。例えば、通勤手当は通勤にかかる実費を補償するために支給されるものですし、休日勤務手当は休日に働いてもらったことに対する代償として支払われます。これらの目的が短時間労働者や契約社員にも適用されるのであれば、同じように通勤しているなら通勤手当、休日に勤務しているなら休日勤務手当を支払うべきです。基本給やボーナスについても同様です。
正社員に基本給を支払う基準が経験や能力に基づいているのであれば、短時間労働者や契約社員にもその経験や能力に応じた基本給を支払うべきです。また、ボーナスも、同じ期間働いていた短時間労働者や契約社員には、その貢献度に応じた割合で支給されるべきです。このように、個々の待遇の性質や目的に基づいて、不合理な格差がないかを判断することが基本となります。」