ーーーー講義録始めーーーー
さて、次に自己決定学習と個人特性との関係について考えてみたいと思います。自己決定学習では、学習を自律的に行うことが求められます。「自律」という言葉は「自分を律する」と書きますが、これは「自治」を意味し、自由に自発的に行動することを指します。先ほど、成人教育学者であるノールズが、学習者は年齢を重ねて成熟することで自己決定性が高まると述べたことを紹介しました。このような年齢に応じた一般的な仮説に加え、自己決定性は学習者の価値観、態度、能力、資質、性格特性など、個々の特性に依存するという指摘も多くなされています。
また、学習環境や条件が整っているかどうかは、学習活動の質を大きく左右します。学習に備えて心身が整っている状態を「レディネス」と呼びますが、このレディネスは学習者ごとに異なるのが現実です。
そうですね。自己決定学習におけるレディネスを調べた研究によれば、自己決定学習のレディネスが高い成人学習者には、学習に対する積極的なイニシアティブや持続性、自分の学習に対する責任感、自律性、強い興味や関心、一人で学習する強い意思、学習を楽しむ気質、目標志向性、課題を障害ではなく挑戦と捉える傾向などの心理的特性が見られることが明らかになっています。
さらに、学習に対する肯定的な価値観があるかどうかは、それまで受けてきた教育歴や学習経験、知能、生育過程における社会経済的地位、家庭の文化資本(家庭が持つ教養、蔵書数、教育への関心度、日常的な文化的環境)によって大きく影響されるとされています。
実は、成人になってから自己決定学習ができるかどうかは、学校教育において主体的に学ぶ経験があったかどうかによっても異なります。このことは、成人教育の示唆として、学校教育において自律的学習が可能となる学習方法の獲得が求められていることを示しています。最近では、学校教育でも「主体的・自発的な学び方」が重要視されるようになっています。
確かに、学習において自律性を持つ人々は、自分の価値観や信念に基づいて目標を設定し、自由に選択を行い、合理的な計画を立てて強い意志で達成を目指します。また、自己を律する自制心も備えています。一方で、学習の自律性が低い場合でも、学習者に意欲があれば、技術的な熟練度や学習内容への親近感、自己効力感、学習への適切なコミットメントによって、自己決定学習を支援することができると考えられています。