ーーーー講義録始めーーーー
と言っても、基本的な原理でカバーできる範囲は限られているのではないかと思ってしまうのですが…。
もちろん、物理学にも限界があります。実は物理学が苦手とする対象があるんです。こちらをご覧ください。今見えているのは、小惑星探査機「はやぶさ」の模型です。はやぶさは広大な宇宙を旅し、小さな小惑星に到達して戻ってきました。宇宙旅行の設計と、こちらのティッシュペーパーがひらひらと落ちる運動、どちらが単純だと思いますか?
さすがに宇宙旅行の方が大変な気がしますが、シンプルなのはティッシュの落下でしょうか。
日常感覚ではそう思いますよね。でも実は逆なんです。探査機の運動を引き起こす原因は重力だけですが、ティッシュペーパーの動きには風や空気抵抗、さまざまなランダムな要因が絡んできます。これらを全て考慮してティッシュの動きを予測するのは、実は宇宙旅行の設計よりもずっと複雑なんです。
探査機の運動は、物理学的には「点の運動」として扱えます。つまり、宇宙空間を動く単純な点として議論できるのです。こうすると、非常にシンプルに予測できる、つまり「決定論的」に運動を予測できるわけです。
なるほど。つまり、物理的に予測可能な運動ということですね。
一方、ティッシュペーパーの動きは、風や空気抵抗の影響がランダムに加わるため、非常に中途半端な対象になります。
さらに、もう一つの極端なケースとして、非常に多くの分子が関わる現象があります。例えば、コップ一杯の水には膨大な数の分子が存在します。これほど多数の分子が関わると、今度は統計的に扱うことができるのです。社会の例でも同じです。少人数のアンケートでは統計が不確かでも、1億人規模になると統計的に意味が出てきますよね。
物理学も同様に、極端に数が多い現象では確率・統計的なアプローチが有効です。物理学が苦手なのは、決定論でも確率統計でも扱えない中途半端な現象です。例えば、生物学の生命現象などがその例です。
なるほど。物理学は、決定論的な現象や確率的な現象を扱う一方で、その中間の現象は難しいのですね。
そうです。物理学は、宇宙の果てからミクロの世界まで、さまざまなスケールで現象を扱います。決定論的に予測できる現象もあれば、確率的に予測する現象もあります。物理学はそれらの現象を法則化し、理解することを目指しています。