ーーーー講義録始めーーーー
このようにジェンダーサブカルチャーを通じて見ると、生徒サブカルチャーが必ずしも学校文化と単純に連続あるいは対立する立場に立つものではなく、より多様な意味を持つものであることが分かります。しかし、もう1つ重要な点として、1990年代以降、それまでのような学校に対するこだわりが徐々に薄れてきたことが挙げられます。
先ほど述べた反学校文化では、学校に対する反抗と同時に強いこだわりが見られましたが、それが次第に薄まってきたということです。この点は、1979年から1997年の20年間における高校生活の変化を時系列で追った研究からも示唆されています。
教育社会学者の樋田大二郎氏らによる共同研究では、学校に不満を覚えたり、クラスに溶け込めないと感じる生徒の割合が、この20年間で徐々に減少していることが指摘されています。しかし一方で、学校生活を楽しい、あるいは張り合いを感じる生徒の割合も減少しているということも示されています。
これに対応するように、教師側の姿勢にも変化が見られます。教師が生徒の行動を「規則違反」や「間違い」として厳しくコントロールすることが少なくなり、様々なタイプの生徒を受容し、許容する傾向が強くなっていることが分かります。このような傾向は、学校が「生徒に制約や矯正を施す場」という性格を弱め、「現在の学校生活を楽しむ場」を志向する方向へと変化していることを示しているようです。
従来、学校空間はフォーマルな理念や価値によって権威と存立基盤を維持するものでしたが、現在では、生徒がそれぞれの都合に合わせて学校の意味を解釈し、住み分けていく緩やかな意味空間としての性質が強まっているということです。