ーーーー講義録始めーーーー
次は、実際の支援事例を通して医療ソーシャルワーカーの支援内容を考察します。本事例は、複数の実際の事例を組み合わせて加工したものです。
事例の患者は、女性で一人暮らし(住宅の2階)をしていました。近所の友人が、新聞が何日も取り込まれていないことに気づき、管理事務所に連絡。管理事務所の担当者が警察とともに部屋を確認したところ、患者は意識が朦朧として倒れており、すぐに救急搬送されました。検査の結果、脳梗塞が判明し、左半身の麻痺、会話困難、理解力の低下が認められました。急性期医療として集中的な治療が行われた後、現在は身体機能の改善を目的とした回復期リハビリテーション病棟に移り、ベッドから車椅子への移乗、立ち上がり、杖を用いた歩行に向けたリハビリを実施しています。
この女性は、以前に配偶者と死別しており、子供もいません。住宅の管理事務所を通じて連絡が取られた姉も高齢で持病があるため、十分な支援は難しい状況でした。親族からの支援が得られず、近所の友人も心配していたものの、親族ではないため支援に限界がありました。さらに、生活費は老齢年金で賄われていたものの、体調不良にもかかわらず金銭的理由から病院受診を控えていたため、入院費の支払いが困難であることが懸念されました。
そのため、入院直後から医療ソーシャルワーカーが支援を開始しました。まず、本人と姉の同意を得た上で、維持管理職員と共に自宅を訪問し、保険証などの重要書類、貴重品、最低限必要な生活物品を回収しました。そして、入院日に遡って生活保護の申請手続きを進めました。
【医療ソーシャルワーカーによる支援内容】
- 経済的問題の解決に向け、患者が意識回復後、わかりやすい言葉で口頭説明を行い、自宅訪問や姉との連絡など、同意形成と援助関係づくりを実施。
- 姉および生活保護の担当者と連携し、制度利用を推進。
- 院内カンファレンスにおいて、主治医、看護師、リハビリ担当者と治療・支援経過の情報共有を定期的に実施。
- 退院後の生活については、退院後に自宅退院が困難であるため、慢性期療養病棟への移行または高齢者施設への入所が検討されたが、患者の意思決定能力が脳梗塞後遺症により低下しているため、金銭管理、財産管理、退院後生活の相談・意思確認が困難な状況となった。
- 姉は治療やリハビリの同意には協力するものの、退院後の生活については病院側に委ねたいという意向が示され、本人の意思決定能力が乏しいことから、利用者の最善の利益を判断することが難しいという課題に直面。
- 回復期リハビリテーション病棟においては、制度上一定の入院期間が設定されており、退院期限が迫っている中で、医療ソーシャルワーカーは以下の方向で支援を進めました。
・医療およびリハビリの方針は、姉の同意を得て進行。
・金銭管理は、医療ソーシャルワーカー部門が維持管理職員と連携して、複数体制で適切に実施。
・入院中の私物管理については、病棟看護師が担当することを確認。
・退院後の生活場所については、写真や図表を用い、シンプルな言葉で説明し、選択肢を提示。姉、生活保護担当者、院内スタッフ、そして面会に来る友人の意見も反映。
最終的に、この女性は自宅を引き払うまで入院期間を延長し、リハビリを継続。その後、地域の老人保健施設に入所しリハビリを続け、最終的には特別養護老人ホームへの入所を待つ形となりました。