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道徳語源と幸福論入門(道徳教育の理念と実践第1回)#放送大学講義録

ーーーー講義録始めーーーー

 

この概念は、古代中国の儒教に由来し、身を修め、家族や共同体を大切にする倫理観として発展しました。日本では明治期に「モラル」との対訳で「道徳教育」が導入され、個人と共同体という二つの次元で人間の生き方を問う領域として位置づけられています。

道徳は、人間が本能に従う「動物的存在」であると同時に、普遍的理念を抱きつつ、文化や現実世界の中で生きる「理性的存在」でもあることを前提とします。つまり、道徳は理論的に「よく生きるとは何か」を考えさせ、実践的に「どう行動すべきか」を導くものです。

このとき、「よく生きる=幸福」との関係が問題になります。たとえばプラトン『国家』に登場するギュゲスの指輪の物語では、どんな人でも欲望のままに振る舞う自由を得ても、道徳的に振る舞う人間こそ真に幸福であると論じられます。外的には不正をしない者が損をするように見えても、内面的な道徳性こそが人間を「よく生きる」状態へ導くというわけです。

一方で、世間では「不正を働く者が一時的に富を得る」という現実もあります。弱者を支配するのが「自然の正義」だとする考えも存在します。しかし私たちは、なぜ「よく生きる」ために道徳的である必要があるのか、その根拠を問い続けなければなりません。道徳教育とは、この根源的な問いを子どもたちに提起し、自ら考え、行動する力を育む営みなのです。