ーーーー講義録始めーーーー
スポートロジーの研究例を見てみましょう。以下は、2011年に『Lancet』誌に発表された台湾での大規模コホート研究の要約です。
2011年、台湾の研究チームは事務職などの身体労働を伴わない成人約416,000名(男性199,265名、女性216,910名)を平均8年間追跡しました。被験者を週当たりの運動時間で5群(非活動群/低活動群/中程度活動群/高活動群/非常に高活動群)に分け、全死因死亡率およびがん、心血管疾患、糖尿病の各疾患別死亡リスク(ハザード比)を比較しています。
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基準群(非活動群)の死亡率を1.00とした場合のハザード比
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週あたり平均92分(=1日15分)の運動を行う低活動群では、全死因死亡率が0.86(14%減少)
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さらに1日15分ずつ運動時間を増やすごとに、全死因死亡率が0.96倍(4%減少)
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がんによる死亡率は、同様に1日15分の追加運動ごとに0.99倍(1%減少)
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疾患別ハザード比の低減傾向
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心血管疾患:運動量増加に伴いハザード比が漸次低下
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糖尿病:同様に運動量増加でハザード比が低下
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がん:先述の通り、追加の運動で緩やかにリスク減少
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余命との関係
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低活動群は非活動群に比べ平均余命が約3年延長
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1日15分の運動実践者とまったく運動しない人を比べると、後者は全死因死亡リスクが約17%高い
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【図表1 運動量と全死因死亡ハザード比の関係】
この研究から、週平均約1.5時間(1日15分程度)の運動でも全死因死亡リスクが有意に低下し、運動時間をさらに増やすほどリスクが漸次下がることが示されました。運動習慣の定着が健康寿命の延伸に重要であることを強く示唆する結果です。