F-nameのブログ

はてなダイアリーから移行し、更に独自ドメイン化しました。

脂肪組織オーバーフロー仮説(健康長寿のためのスポートロジー第5回)#放送大学講義録

ーーーー講義録始めーーーー

 

それでは、なぜ肥満者でインスリン抵抗性が生じるのか、そのメカニズムを詳しく見ていきましょう。中心的に注目されているのが、**「脂肪組織オーバーフロー仮説(Lipid Spillover Hypothesis)」**です。


脂肪組織オーバーフロー仮説のメカニズム

  1. 内臓脂肪型肥満による脂肪細胞過剰膨張

    • 内臓脂肪が過剰に蓄積すると、脂肪組織内の脂肪細胞(アディポサイト)がキャパシティを超えて膨張し、脂肪酸を“ため込めなく”なる。

  2. 遊離脂肪酸(FFA)のスピルオーバー

    • 余剰のFFAが脂肪組織外に流出し、血流に乗って全身を巡る。

    • これをリピッドスピルオーバーと呼ぶ。

  3. 異所性脂肪蓄積(Ectopic Fat Deposition)

    • 漏れ出たFFAは肝臓や骨格筋などインスリン作用臓器に沈着し、細胞内に中性脂肪として蓄積。

    • 特に、**肝脂肪(脂肪肝)筋内脂肪(intramyocellular lipid)**として増加する。

  4. インスリンシグナル伝達の障害

    • 異所性脂肪がインスリン受容体シグナルを妨げ、インスリン抵抗性を誘発。

    • 結果的に高血糖・高血圧・脂質異常などの代謝異常を引き起こす。


図8 脂肪組織オーバーフローから異所性脂肪蓄積・インスリン抵抗性への流れ(イメージ図)

内臓脂肪蓄積 ↑
     ↓
脂肪細胞キャパオーバー
     ↓
FFAスピルオーバー → 血中FFA↑
     ↓
肝臓・筋肉へのFFA沈着(異所性脂肪)
     ↓
インスリンシグナル障害
     ↓
メタボリックシンドローム発症リスク↑

 

その他の関与因子

  • 不健康なライフスタイル(過剰摂取、運動不足、睡眠不足、ストレスなど)

  • 遺伝的素因

  • 慢性炎症(脂肪組織由来のサイトカイン増加)

これらが複合的に影響し合い、インスリン抵抗性の発症・進展に寄与すると考えられています。


異所性脂肪の定量

近年、MRIやCTを用いて

  • 肝脂肪率(Hepatic Fat Fraction)

  • 筋内脂肪量(Intramyocellular Lipid Content)

を定量する技術が開発され、インスリン抵抗性との強い相関が確認されています。異所性脂肪は単なる肥満指標よりも、代謝異常リスクの“より直接的”なバイオマーカーとして注目されています。