ーーーー講義録始めーーーー
それでは、なぜ肥満者でインスリン抵抗性が生じるのか、そのメカニズムを詳しく見ていきましょう。中心的に注目されているのが、**「脂肪組織オーバーフロー仮説(Lipid Spillover Hypothesis)」**です。
脂肪組織オーバーフロー仮説のメカニズム
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内臓脂肪型肥満による脂肪細胞過剰膨張
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内臓脂肪が過剰に蓄積すると、脂肪組織内の脂肪細胞(アディポサイト)がキャパシティを超えて膨張し、脂肪酸を“ため込めなく”なる。
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遊離脂肪酸(FFA)のスピルオーバー
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余剰のFFAが脂肪組織外に流出し、血流に乗って全身を巡る。
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これをリピッドスピルオーバーと呼ぶ。
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異所性脂肪蓄積(Ectopic Fat Deposition)
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漏れ出たFFAは肝臓や骨格筋などインスリン作用臓器に沈着し、細胞内に中性脂肪として蓄積。
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特に、**肝脂肪(脂肪肝)や筋内脂肪(intramyocellular lipid)**として増加する。
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インスリンシグナル伝達の障害
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異所性脂肪がインスリン受容体シグナルを妨げ、インスリン抵抗性を誘発。
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結果的に高血糖・高血圧・脂質異常などの代謝異常を引き起こす。
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図8 脂肪組織オーバーフローから異所性脂肪蓄積・インスリン抵抗性への流れ(イメージ図)
内臓脂肪蓄積 ↑
↓
脂肪細胞キャパオーバー
↓
FFAスピルオーバー → 血中FFA↑
↓
肝臓・筋肉へのFFA沈着(異所性脂肪)
↓
インスリンシグナル障害
↓
メタボリックシンドローム発症リスク↑
その他の関与因子
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不健康なライフスタイル(過剰摂取、運動不足、睡眠不足、ストレスなど)
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遺伝的素因
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慢性炎症(脂肪組織由来のサイトカイン増加)
これらが複合的に影響し合い、インスリン抵抗性の発症・進展に寄与すると考えられています。
異所性脂肪の定量
近年、MRIやCTを用いて
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肝脂肪率(Hepatic Fat Fraction)
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筋内脂肪量(Intramyocellular Lipid Content)
を定量する技術が開発され、インスリン抵抗性との強い相関が確認されています。異所性脂肪は単なる肥満指標よりも、代謝異常リスクの“より直接的”なバイオマーカーとして注目されています。