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筋内脂肪増加とインスリン感受性低下(健康長寿のためのスポートロジー第5回)#放送大学講義録

ーーーー講義録始めーーーー

 

それでは、異所性脂肪(特に筋内脂肪:intramyocellular lipid)について、もう少し詳しく見ていきましょう。


以下は、ヒトの骨格筋組織の組織学的な断面像です。赤い部分が筋線維(骨格筋組織)で、その間に点々と見える白い斑点が脂肪組織です。これは、筋線維と筋線維の間に蓄積した**筋間・筋周囲脂肪(extramyocellular lipid)と、筋線維内部に蓄積した筋内脂肪(intramyocellular lipid)**を示しています。


^1H-MRS(プロトン磁気共鳴スペクトロスコピー)による脂肪定量

  • ^1H-MRSを用いると、水のプロトン信号と脂肪のプロトン信号(脂肪ピーク)を分離して計測できます。

  • スペクトル上には、

    • 外在性脂肪ピーク(筋間・筋周囲脂肪)

    • 内在性脂肪ピーク(筋内脂肪)
      の2つの脂肪ピークが検出され、それぞれの脂肪含量を定量できます。

FFA投与による異所性脂肪蓄積とインスリン感受性低下の実験

20年以上前の研究では、健康被験者に**遊離脂肪酸(FFA)**を点滴投与し、筋肉内脂肪量とインスリン感受性(グルコースクランプ法など)を測定しました。その結果:

  1. 点滴により血中FFA濃度が上昇 →

  2. 筋線維内に急速に筋内脂肪が蓄積 →

  3. インスリン感受性が著明に低下(インスリン抵抗性の悪化)

という因果関係が明らかになりました。特に、目に見える筋間脂肪よりも、筋線維内部に蓄積する筋内脂肪の増加がインスリン抵抗性の主要因であることを示すデータが得られています。


このように、異所性脂肪のうち「目に見えない」脂肪(筋内脂肪)が、インスリン作用臓器である骨格筋の感受性を低下させ、メタボリックシンドローム発症のメカニズムに深く関与していると考えられています。