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肝脂肪率とインスリン抵抗性(健康長寿のためのスポートロジー第5回)#放送大学講義録

ーーーー講義録始めーーーー

 

それでは、肝臓に蓄積する異所性脂肪(肝脂肪)について詳しく見ていきましょう。


^1H-MRSによる肝脂肪定量

  • 肝臓は主に細胞内にのみ脂肪(トリグリセリド)を蓄積します。

  • ^1H-MRS(プロトン磁気共鳴スペクトロスコピー)では、水ピークと脂肪ピークが観測されますが、肝臓では脂肪ピークが一つだけ現れ、その面積比(脂肪ピーク/(脂肪ピーク+水ピーク))を算出することで肝脂肪率(Hepatic Fat Fraction; HFF)を定量化できます。

  • このHFFが高いほど肝臓に脂肪が多く蓄積している(=脂肪肝)ことを示し、一定以上(例:5%超)で**非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)**と診断されます。

肝脂肪とインスリン感受性の関係

複数の研究で、肝脂肪率とインスリン感受性(グルコースクランプ法によるM-valueなど)は強い負の相関を示します。

  • 肝脂肪率↑ → インスリン感受性↓

  • すなわち、肝臓に脂肪が多いほど、全身のインスリン抵抗性が悪化することが明らかになっています。


全体像の再整理:異所性脂肪とインスリン抵抗性発症カスケード

  1. 肥満進展

    • 皮下脂肪 ↓ 内臓脂肪 ↑

  2. 脂肪組織オーバーフロー(Spillover)

    • 遊離脂肪酸(FFA)が血流に流出

  3. 異所性脂肪蓄積

    • 肝臓:肝脂肪(脂肪肝)

    • 筋肉:筋内脂肪

  4. インスリンシグナル障害

    • 肝臓・筋肉のインスリン応答低下

  5. 生活習慣病発症リスク↑

    • 高血糖・高血圧・脂質異常症 → メタボリックシンドローム


このように、肝臓に蓄積する脂肪(肝脂肪率)も、骨格筋の筋内脂肪同様にインスリン抵抗性の重要な要因です。肝脂肪率は早期に非侵襲的にMRSやMRI-PDFFで評価できるため、メタボリックシンドローム予防・改善のバイオマーカーとして注目されています。