ーーーー講義録始めーーーー
健康問題に引きつけて考えると、お酒の実態はエチルアルコール(エタノール)という物質です。本稿では便宜上「アルコール」と呼びます。
純アルコール量換算で、1日あたり60グラム以上の酒類を毎日摂取する人を「多量飲酒者」と定義します。具体的には、生ビール500ml缶を3本飲む量にほぼ相当します。
この60グラムという基準を超えて摂取を続けると、体内でアルコールに対する耐性が増強し、いわゆる「酒が強くなる」状態になります。しかしこれは決して良いことではなく、耐性の増強はアルコール依存症への準備段階と考えられています。
かつて「酒に強いほど大人らしい」「男なら酒ぐらい飲めなければ」という価値観がありましたが、医学的にはアルコール耐性の増強は依存症リスクの上昇を意味し、まったく肯定されるものではありません。まずはこの点を正しく理解することが出発点です。
2013年の厚生労働省調査では、純アルコール換算で毎日60グラム以上を摂取する多量飲酒者は約980万人と推定され(男性785万人、女性195万人)、男女比はおよそ4対1でした。一方、同時期に医療機関でアルコール依存症と正式に診断された人数は約4万人に過ぎません。
実際には、アルコール依存症者は100万人前後存在すると推測されており、多くの依存症患者が治療の機会を得られずに放置されています。依存症は病識(自分が病気であるという認識)が乏しく、本人が治療を受けようとしないことが大きな障壁です。しかし、放置せず適切な介入を行うことが極めて重要です。