ーーーー講義録始めーーーー
ただし、これまでアルコール摂取の急性効果と危険性について述べましたが、有害な物質そのものではなく、その摂取行為が問題の出発点となります。なぜ危険と認識しながら、人は好んでアルコールを飲むのか──ここに、他の疾患にはない特有の難しさがあります。
DSM-5(診断・統計マニュアル第5版)では、アルコールや薬物などの外因性物質による精神障害を総称して「物質関連障害」と呼び、以下の二つに大別しています。
-
物質誘発性障害
摂取された物質が中枢神経や身体に直接有害作用を及ぼして引き起こされる症状群。認知機能障害、情動変調、運動失調、せん妄などが含まれます。 -
物質使用障害
物質使用をめぐる行動パターンの障害。使用のコントロール不能、強い使用欲求(クレービング)、社会的・職業的機能障害などを特徴とします。
このように、物質関連障害は「物質そのものの生理学的影響」と「使用行動の非適応性」という二面性を備えている点が特徴です。
なお、先に説明した脱抑制(抑制の抑制)現象は、物質誘発性障害における代表的な例と考えられます。