ーーーー講義録始めーーーー
次回、尖閣諸島の問題をうかがいますが、この「棚上げ」という手法は尖閣でも用いられています。尖閣問題における「棚上げ」は、竹島問題が原型というわけではありません。
尖閣では、1972年の日中共同声明交渉の過程で、当時の周恩来(しゅう・おんらい)中国首相が田中角栄総理に対し、領有権問題を「先送りにして解決しないことをもって解決する」という構想を示しました。この発想が生まれた背景には、1969年の中ソ国境紛争(珍宝島事件)で両国が武力衝突寸前まで対立し、核戦争の危機感が高まった事情があります。
米国も、キッシンジャー博士の回顧録によれば、中国とソ連の衝突が核戦争に発展する可能性を非常に強く懸念しており、領土紛争を棚上げすることで軍事エスカレーションを抑制しようという国際的な知恵が共有されていました。こうして尖閣でも「解決しないことをもって解決とする」アプローチが採用され、日中関係の中で問題を留保する形が定着したのです。


