ーーーー講義録始めーーーー
武力紛争法(国際人道法)は、すべての交戦当事者に平等に適用されるべきですが、適用の平等性に関しては以下の二つの問題が歴史的に議論されてきました。
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相恵条項(相互加入条項)の問題
19世紀末までの多くの国際条約には、いわゆる「相恵条項(reciprocity clause)」が設けられていました。これは、条約締約国のうち一国でも当該条約を批准していなければ、他の締約国同士であっても条約は適用されない、という規定です。つまり、非締約国の参戦国は条約の義務・制限を免れる一方、締約国は義務を負うため不利になる仕組みでした。しかし、第一次世界大戦後の国際人道法では、この相恵条項は廃止されています。1949年の各ジュネーブ条約共通第2条は、「当事国のいずれか一方が条約を批准していなくとも、交戦時には条約を遵守しなければならない」と明記し、相恵条項の効果を否定しました。その結果、条約の適用範囲はすべての交戦当事国に均等に拡大されています。
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違法交戦者への適用平等の問題
武力行使の正当性(jus ad bellum)と交戦時遵守義務(jus in bello)は法理上区別されますが、「違法に武力を行使した国家も武力紛争法の保護を受けるか」という議論があります。たとえば、不正に侵略戦争を行った側の兵士が捕虜となった場合、それでもジュネーブ条約により捕虜待遇を受けるのは不合理ではないか、という疑問です。実際には、国際人道法は交戦当事者の行為の合法性を問わず一律に適用されます。その理由は以下の通りです。
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jus ad bellum(武力行使の正当性)と jus in bello(交戦規範)は別個の法領域であり、後者の効果を前者の違法性に連動させる必然性がないこと。
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国連安全保障理事会や国際司法裁判所が交戦の違法性を迅速かつ包括的に判断できず、実務上すべての違法・合法交戦者を区別して法を適用することが困難であること。
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以上の経緯から、武力行使の合法・違法を問わず、すべての交戦当事者に対して武力紛争法の平等適用が原則とされています。




