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国際人道法における兵器規制体系(国際法第15回)#放送大学講義録

ーーーー講義録始めーーーー

 

武力紛争法(国際人道法)における兵器規制は、交戦時に適用される規範と平時に締結・実施される軍縮・軍備管理条約とが二重構造を成しています。両者は適用時期だけでなく、目的(交戦手段の制限 vs. 軍縮・拡散防止)や法的性格(強行法規 vs. 条約法)にも違いがありますが、多くの規定が整合的に設計されています。

  1. 歴史的基盤:ハーグ陸戦規則
    1907年ハーグ第IV条約「陸戦の法規慣例に関する条約」およびその付属規則は、陸戦や占領地での兵器使用の基本ルールを定め、軍事的必要性と人道的保護(マルテンス条項)を両立させる先駆となりました。

  2. 主要軍縮・兵器禁止条約

    • 生物兵器禁止条約(採択1972年/発効1975年)

    • 化学兵器禁止条約(採択1993年/発効1997年)

    • 特定通常兵器使用禁止・制限条約(CCW, 1980年採択)

    • 対人地雷禁止条約(オタワ条約, 1997年採択・発効)

    • クラスター弾禁止条約(2008年採択)

    • 武器貿易条約(2013年採択)

    • 包括的核実験禁止条約(CTBT, 1996年採択)

    • 核不拡散条約(NPT, 1968年採択/1970年発効)

    • 南太平洋非核地帯条約(ラロトンガ条約, 1985年発効)

    • ラテンアメリカ及びカリブ核兵器禁止条約(トラテロルコ条約, 1967年発効)

    • 核兵器禁止条約(採択2017年/発効2021年):開発・生産・実験・取得・保有・貯蔵・移譲・使用・威嚇を全面禁止。ただしNPT核兵器国(米英仏中露)およびインド・パキスタン・イスラエル・北朝鮮は未加盟で、実効性に課題があります。

  3. 特定兵器の慣習規制
    ハーグ陸戦規則第23条ホ号は、「不必要な苦痛を与える兵器の使用」を禁止し、列挙規制の空白を慣習国際法として埋めるマルテンス条項と共に適用されます。

  4. 21世紀的課題

    • 完全自律型致死兵器システム(LAWS: Lethal Autonomous Weapons Systems) の規制議論が国連で進展中。

    • サイバー攻撃宇宙兵器 の使用に関しては『タリン・マニュアル』等を踏まえ、国際人道法の適用可能性が検討されています。

  5. ICJ勧告的意見(1996年)
    「国家の存立が危険にさらされるような極限的な自衛の状況において、核兵器の使用が合法であるか違法であるかについて裁判所は最終的な結論を下すことができない」という判断を示し、通常の交戦法規範との調整を巡って議論が続いています。

以上のように、武力紛争法上の兵器規制は、歴史的条約と現代の軍縮・新技術規制を統合的に運用しつつ、軍事的必要性と人道的考慮の均衡を図る体系として進化しています。