ーーーー講義録始めーーーー
ご遺族の心情を思えば、この事故について何らかの補償が必要であることは言うまでもありません。
また、多くの子どもの安全を委ねられている学校現場の実情を考慮すると、防災行政無線の広報車が学校付近を通過し避難を呼びかけた時点で、実際に津波が迫っていることを認識できたといえます。その時点では、教員は速やかに、かつ可能な限り津波被害を回避するため、児童を安全な場所へ避難させる義務を負っており、学校側のクライシスマネジメントに過失があったとする判断は、合理的な判断と考えられます。
一方で、リスクマネジメントの観点から、教員は児童生徒の安全を確保するため、学校設置者である市から提供される情報についても、独自の立場から批判的に検討することが求められる場合があるとした点については、評価が分かれるところです。今回問題となった市作成の津波ハザードマップは、地震学や気象学、土木工学などの専門的知見に加え、地域の実情や住民の経験的知識も考慮して作成されたものであり、教員の専門性は教育活動を中心としつつも、学校安全はその職務の一部として重要な位置を占めています。
このため、教員に対し、地域の被災履歴や地形に関する知見の信頼性を判断する能力が一定程度求められるのは事実ですが、その判断が高度専門的知識を必要とする場合には限界もあります。このことは、仮に教員が職務上得た災害関連の情報や経験を市教育委員会や他校教職員と共有したとしても変わりません。
学校保健安全法第27条は、学校設置者に対し、児童生徒等の安全確保を図るため、事故・加害行為・災害等による危険を防止し、また危害が現に生じた場合に適切に対応できるよう、施設・設備や管理運営体制の整備充実その他必要な措置を講ずる努力義務を課しています。この努力義務は、既存情報のみに依存するか否かを問うものではなく、積極的に安全確保措置を講じる姿勢を求めるものです。
この意味で、控訴審判決は学校安全確保の重要性を強調しつつ、教員に対して高度な判断を求めた側面があります。これを厳格と評価する見解もありますが、判決の論理は、未成熟な子どもが多数集う学校という環境における特別の安全配慮義務を根拠とするものであり、一定の合理性があります。
結局のところ、学校はその特性上、事故や災害リスクを常に内包しており、事前のリスクマネジメントと事後のクライシスマネジメントをいかに組み合わせ、適切なバランスを取るかが、学校における危機管理の成否を左右するといえるでしょう。
