ーーーー講義録始めーーーー
レジリエンス・プロセスの基本モデル
多様な回復のあり方が存在することを踏まえた上で、人の心のレジリエンスは便宜的にV字の曲線で説明されることが多いです。縦軸は精神的健康や適応の度合い、横軸は時間経過を表しています。
ここでは、ストレスがかかっていない状態をベースラインと考え、ストレスフルな出来事によって急激に心の機能が下がり、その後徐々に元の水準まで回復していく過程をレジリエンスと捉えます。
オックスフォード英語辞典によると、resilienceは “The capacity to recover quickly from difficulties; toughness” と定義されています。直訳すると「困難から素早く立ち直る力;タフネス」となり、「素早く」という要素が含まれています。ただし、心理学的研究においては必ずしも回復の速さのみを基準とせず、「回復できること」や「逆境に適応すること」が重視されています(Masten, 2001)。
3つの異なる力の方向
概念図の曲線からは、一連のレジリエンス・プロセスの中に、大きく3つの方向の力が見て取れます。これは普遍的な学説ではなく、理解を助ける便宜的な整理です。
1つ目:急激な落下をしない力(V字の左側)
困難や脅威、例えばショックな出来事やストレスフルなライフイベントが起こった際に、急激に落ち込み過ぎない力です。落ち込むこと自体は自然なことですが、もしガラスのコップが床に落ちて粉々になるように、あまりに激しい落ち込みを示すと回復が困難になります。一方、素材やクッションがあれば、致命的な破壊には至らず持ちこたえられることを想像できます。
2つ目:方向転換する力(V字の底の折り返し)
落ち込みにとどまった状態から、前進の方向へと転換する力です。ここでは大きなエネルギーの方向転換が必要になります。実際には、ある日を境に完全に転換が起こることは少なく、迷いや一進一退を経ながら少しずつ前に進んでいくのが一般的です。
3つ目:回復・適応の道を進んでいく力(V字の右側)
回復や適応の過程を進んでいく力です。物体のレジリエンスでは、外力が除かれれば自然に元に戻ることが多いですが、心のレジリエンスでは多くの場合、意識的な努力やエネルギーが必要になります。
レジリエンスを促進する要因
レジリエンスの各段階には、プロセスを導き促進する要因が存在します。これには外的要因と内的要因があります。
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外的要因:支援を与える他者やコミュニティなど。例えば、ひっくり返ったカブトムシが起き上がるには、人の手助けや木の棒といった外部からの支援が不可欠です。これはV字曲線の折り返しにあたる部分で、方向転換を助ける役割を果たします。
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内的要因:個人が持つ楽観性や柔軟性などの資質や行動傾向。こうした個人の特性は回復を促進する役割を担います。
また、体の怪我が自然治癒で回復する場合でも、初期の処置によってその後の経過が左右されることがあります。同様に、レジリエンスのプロセスも初期段階の外的支援がその後の回復全体に影響を及ぼすことがあります。
まとめ
レジリエンスは「心の自然治癒力」とも比喩されますが、その過程は自動的に進むものではありません。外的・内的要因が相互に作用しながら、多様な道筋をたどって進んでいくプロセスなのです。

概念図を作成しました。
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V字曲線:心のレジリエンスの基本モデル(縦軸=心の健康、横軸=時間)
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① 急激な落下をしない力(青)
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② 方向転換する力(オレンジ)
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③ 回復・適応の力(緑)
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外的要因:支援・コミュニティ・環境
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内的要因:楽観性・柔軟性・自己効力感
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ベースライン:平常の心の状態(破線で表示)
