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レジリエンス・プロセスの多様性と実践への示唆 #放送大学講義録(レジリエンスの科学第2回その7)

ーーーー講義録始めーーーー

 

レジリエンス・プロセスの複雑性

これまで扱ってきたレジリエンス・プロセスのV字モデルにおいて、右側の回復・適応の歩みは、単純な二次元的な直線回復ではなく、多様な道のりを含む複雑なプロセスです。

改めて整理すると、主に次の3つの道のりがあります:

  • 元に戻っていくプロセス:段階的に衝撃前の水準に回復していく

  • 戻らないけれど歩むプロセス:完全な回復は難しいが、崩れ切らず維持しながら歩みを進める

  • 変わっていくプロセス:新しい質的変化や成長を伴う適応

これらは相互に排他的ではなく、同一人物の中でも並行して進むことがあります。また、同じ人であっても、人生の異なる時期や異なるストレッサーに直面した際に、異なるレジリエンス・プロセスをたどる場合があります。

レジリエンス理解の実践的意味

個別性の尊重

レジリエンス・プロセスの多様性を理解することは支援の現場で重要です。「早く元気になるべきだ」「もう立ち直っているはずだ」といった一律の期待ではなく、その人固有のペースとプロセスを尊重する必要があります。

時期に応じた支援

V字曲線の各局面に応じて求められる支援は異なります:

  • 左側(崩れない力):衝撃を和らげ、致命的な落ち込みを防ぐための支え

  • 底部(方向転換):エネルギーを前進へ切り替える転換点でのサポート

  • 右側(回復・適応):回復や成長を維持し方向づける継続的支援

環境要因と個人内要因の相互作用

レジリエンスは個人の資質だけでなく、環境資源との相互作用により強化されます。例えば「カブトムシが木の棒を支えにして起き上がる」比喩のように、人の回復にも適切なタイミングでの支援が欠かせません。

現代社会におけるレジリエンスの意義

災害大国日本における示唆

東日本大震災、新型コロナウイルス・パンデミック、将来予測される災害に対して、レジリエンス研究の知見は個人・地域・社会の備えとなります。個人の心理教育、地域の支援体制、医療・防災教育の充実など多層的な取り組みが必要です。

多様性の時代のレジリエンス

現代は性別・文化・価値観・ライフスタイルの多様性が共存する社会です。レジリエンスにも単一の「正しい」道筋は存在せず、多様なプロセスを認め支援する社会的仕組みが求められます。

予防と促進の視点

レジリエンス理解は危機対応だけでなく予防的視点も含みます。日常的なストレス・コーピングスキルの向上、信頼できるネットワークの構築、支援文化の醸成は社会全体のレジリエンスを底上げします。

まとめ

心のレジリエンスは単なる「回復力」ではなく、複雑かつ多様なプロセスです。物理的な復元力とは異なり、人の心は「元に戻る」「維持して歩む」「新たに変化する」といった道筋をたどり、そこに適切な支援と環境が介在します。

  • ストレス反応は自然で必要な反応であること

  • 防衛機制やコーピングにより心は自らを守ること

  • 回復には多様な道があること

  • プロセスに応じた支援が重要であること

これらを理解することは、困難な時代にあって私たち一人ひとりが、そして社会全体が互いを支え合い、より豊かなレジリエンスを育む基盤となります。