ーーーー講義録始めーーーー
数値化の限界を理解する
これまで述べてきたように、レジリエンスの個人差は尺度を用いて数値的に示されることが多く、それによって「どの程度レジリエンスがあるか」という量的比較が行いやすいと言えます。
しかし、この数値はあくまでも便宜的に可視化されたものです。特にレジリエンス要因を測定する尺度を用いる際には、この点への留意が必要です。
レジリエンス要因尺度の特徴
レジリエンス要因尺度では、レジリエンスにつながる特性や能力が複数項目として並び、それを多く持つほど得点は高くなります。
しかし、実際に逆境に直面してレジリエンスを発揮する際には、これら全ての要因を備えている必要はありません。その時に個人にとって意味があり、活用できる要因によってレジリエンスは導かれるのです。
したがって、尺度得点の高さはレジリエンスの一つの指標ではありますが、必ずしも実際のレジリエンスと一致するとは限りません。
質的個人差の重要性
このことから、レジリエンスを「どの程度持っているか」という量的な個人差だけでなく、「どのように発揮しているか」という質的な個人差を捉える視点が、教育的にも臨床的にも重要だと考えられます。
レジリエンスの2つの力の個人差
前回の講義では、レジリエンスには大きく分けて「崩れない力」と「回復・適応を歩む力」があると説明しました。今回は、それぞれの力をどのように示すかという個人差について、具体例を交えて理解を深めていきます。
身近な例から考える
あなたの周りにいる、辛い状況に陥ってもすぐに回復できる人、つまりレジリエンスが高いと感じられる人を思い浮かべてください。芸能人や架空の人物でも構いません。
その人の特徴として、次のようなものが挙げられるかもしれません。
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ポジティブ思考
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嫌なことを引きずらず切り替えが早い
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基本的に前向き
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根気や忍耐がある
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笑顔を絶やさない
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行動力がある
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周囲の支援を得やすい
こうした特徴のどれがレジリエンスに不可欠なのかは一概には言えません。
正解のない多様性
実際には、レジリエンスに必要な資質は一つではなく、状況に応じて異なります。
例えば、大きな挫折を経験したときの回復手段には:
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原因を分析する
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感情を涙と共に表出する
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気分転換に娯楽を利用する
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他者に相談する
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信仰や価値観に支えを求める
といった多様な方法があります。
どの方法が選ばれるかは、その人が持つレジリエンス要因によって異なります。
多様なレジリエンス要因
研究の中で明らかにされてきたレジリエンス要因には次のようなものがあります。
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ソーシャルスキル:共感性、外向性、自己開示、ユーモアなど
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コンピテンス:問題解決力、洞察力、知的スキルなど
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自己統制:自己調整、感情制御など
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チャレンジ志向:新しいことへの関心、努力を継続する力
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気質的要因:抵抗力、忍耐力など
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未来志向:楽観性、将来を肯定的に捉える力
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その他:身体的健康、道徳心、信仰心、スピリチュアリティなど
これらは網羅的ではありませんが、レジリエンスが多様な要因によって支えられることを示しています。
個人による立ち直り方の違い
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洞察力の高い人は、原因分析によって次の行動に移ります。
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自己統制の強い人は、感情をコントロールして生活を維持します。
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チャレンジ志向の人は、新しい活動に挑戦し、苦しみを他の関心へと転換します。
どの要因が正しい・優れているということではなく、その人に最も適した力がレジリエンスとして機能するのです。
社会的価値観との関係
一方で、社会や文化の価値観が、レジリエンスの発揮の仕方を制限することもあります。
例えば、「愚痴を言うのは迷惑」「男性は泣くべきではない」といった価値観は、感情表出によるレジリエンスを否定してしまう可能性があります。本人にとって有効な方法であっても、社会的に望ましくないとされれば活用しづらくなります。
その結果、本人も自分の方法をレジリエンスと認識できなくなる場合があります。重要なのは、社会的規範にとらわれることなく、自分に合った方法でレジリエンスを発揮できることです。

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内的要因(個人特性)
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ソーシャルスキル(共感性・外向性・自己開示・ユーモア)
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コンピテンス(問題解決力・洞察力・知的スキル)
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自己統制(自己調整・感情制御)
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チャレンジ志向(開放性・努力の継続)
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気質的要因(抵抗力・忍耐力)
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未来志向(楽観性・肯定的未来志向)
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外的要因(環境・社会的支援)
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家族や友人の支え
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コミュニティのつながり
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教育・医療資源
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文化・信仰・スピリチュアリティ
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