ーーーー講義録始めーーーー
回復・適応の個人差の特徴
衝撃的出来事を経験し、心が一時的に落ち込んだ後、どのように回復や適応の道を歩んでいくかは大きく個人差があります。回復プロセスは、出来事の可逆性、喪失の大きさ、状況のコントロール可能性などの要因によって大きく左右されます。そのため、「崩れない力」の個人差と比べ、回復・適応の力は一層多様で捉えにくいといえます。
レジリエンス・オリエンテーションという視点
この多様な回復の方向性を質的に理解する試みの一つが「レジリエンス・オリエンテーション」です。これは、人が無意識的にどの方向の回復を思い描きやすいかを、3つの回復方向 × 3つの達成方法 のマトリックスで整理したものです。
3つの回復方向
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復元(Restoration)
失ったものを元に戻そうとする志向性。問題解決や再獲得を目指す。 -
受容(Acceptance)
変えられない現実をそのまま受け入れ、心の平穏を取り戻そうとする志向性。 -
転換(Transformation)
逆境や喪失に新しい意味づけを行い、別の価値や方向性を見出そうとする志向性。
3つの達成方法
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個人(Individual):自分自身の行動や考えで達成する。
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他者(Relational):他者からの援助や共感を通して達成する。
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超越(Transcendent):時間・運・神仏など、自分の力を超えたものに委ねる。
9つのマトリックス例
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復元 × 個人:自力で問題を解決し、元の状態を取り戻そうとする。
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復元 × 他者:他者の助けを得て元の状態に近づけようとする。
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復元 × 超越:時間や運に委ねて自然に回復することを期待する。
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受容 × 個人:自分で現実を受け入れる。
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受容 × 他者:他者と共に受け入れ、支え合うことで心を落ち着ける。
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受容 × 超越:時が解決するのを待つ。
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転換 × 個人:自ら意味を見出し、新しい価値や視点を獲得する。
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転換 × 他者:他者との関係を通じて新しい意味や価値を発見する。
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転換 × 超越:運命や神の意志と捉え、逆境を新しい方向へと転換する。
個人差と柔軟性
同じ状況を経験しても、どのオリエンテーションを志向するかは人によって異なります。また、同じ人物でも状況により異なるオリエンテーションを選ぶことが一般的です。ただし、一貫して同じ志向を選びやすい人も存在し、その柔軟性の違いも個人差として重要です。
自己理解のための振り返り
最近のストレス体験を思い出してみてください。
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あなたは問題解決を志向する「復元」でしたか?
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それとも現実を受け入れる「受容」でしたか?
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あるいは、新しい意味を見出す「転換」でしたか?
このオリエンテーション・マトリックスを活用することで、自分自身の回復の傾向を理解する手がかりとなります。

