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レジリエンス研究が明かす新たな理解 - 継続的意味付けプロセス #放送大学講義録(レジリエンスの科学第3回その6)

ーーーー講義録始めーーーー

 

従来の理解を超えて

これまでの東日本大震災の追跡調査データから明らかになったことは、レジリエンスに対する私たちの理解を大きく変える重要な知見でした。従来のV字型回復モデルでは捉えきれない、より複雑で動的な現象としてレジリエンスを理解する必要があります。

レジリエンスの新しい定義

これらの研究結果から、レジリエンス・プロセスについて以下の新しい理解が導かれます。

  • 終わりのないプロセス:レジリエンス・プロセスはどこかで「完了」するものではなく、継続的に意味付けされ続けるプロセスである。

  • 相対的な評価:現在の状況との比較の中で、過去の体験が再解釈され続ける。

  • 動的な意味再構築:時間の経過とともに、同じ出来事に対する意味付けが変化する。

  • 主観的な現実:客観的な状況よりも、個人がその状況をどう意味付けるかが重要である。

時間軸における意味の変化

  • 短期的視点(発生直後〜1年)
    衝撃からの即時的な対処。生存や安全の確保が最優先であり、明確な「良い/悪い」の判断は困難。

  • 中期的視点(1年〜数年)
    生活再建のプロセス。新しい日常を構築し、過去の体験に初期的な意味付けを行う段階。

  • 長期的視点(数年〜)
    人生全体の文脈における位置付け。より深い意味や価値の発見、継続的な再評価と再構築が行われる。

意味付けプロセスの特徴

  1. 螺旋的発展:同じテーマを繰り返し考えつつも、毎回異なるレベルの理解に至る。

  2. 文脈依存性:生活状況、人間関係、社会情勢などが意味付けに影響する。

  3. 対話的構築:他者との関わりの中で意味が構築され、修正される。

  4. 統合的理解:過去・現在・未来を統合した物語として体験を理解する。

個人差を生む要因

  • 認知スタイル:分析的思考 vs 直感的思考、論理的処理 vs 感情的処理、内省的 vs 外向的。

  • 価値観・世界観:宗教的・スピリチュアルな価値観、人生観、困難に対する意味付けパターン。

  • 社会的資源:意味付けを支える他者、文化的・宗教的コミュニティ、専門的支援の利用可能性。

  • ライフステージ:年齢や発達段階、人生の役割や責任、将来展望の違い。

支援におけるパラダイムシフト

  • 従来の支援モデル

    • 症状の軽減・除去を目標とする。

    • 「元の状態への回復」を理想とする。

    • 短期的効果を測定する。

    • 専門家主導の介入が中心。

  • 新しい支援モデル

    • 意味付けプロセスの支援を中心とする。

    • その人らしい適応を目指す。

    • 長期的な伴走を行う。

    • 当事者主体の意味構築を支援する。

意味付け支援の具体的方法

  1. ナラティブ・アプローチ
    体験を物語として語る機会の提供、物語の再編集や新たな章の追加支援、複数視点からの物語検討。

  2. 対話的支援
    安全な対話空間の提供、意味付けの共有と検討、他者の体験からの学びの機会。

  3. 時間軸での整理
    過去・現在・未来の連続性の確認、変化の過程の可視化、成長や変化の認識支援。

  4. リソースの発見と活用
    内的・外的資源の特定、資源の活用方法の検討、新たな資源の開発。

研究への示唆

  • 従来の研究アプローチの限界

    • 横断的研究では動的変化を捉えられない。

    • 量的尺度では質的変化を測定しにくい。

    • 研究者視点の一方的評価になりやすい。

  • 新しい研究アプローチの必要性

    • 長期縦断的研究の重視。

    • 質的研究方法の積極的活用。

    • 参加型研究による当事者視点の重視。

    • 混合研究法による多面的理解。