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気質と性格 - 変わりにくい部分と変わりやすい部分 #放送大学講義録(レジリエンスの科学第4回その2)

ーーーー講義録始めーーーー

 

クローニンガーの気質・性格理論

ビッグファイブとは異なる視点から、パーソナリティの中で生得的に安定している部分と、発達を通じて変化しやすい部分を区別した理論を提唱した研究者がいます。C. Robert Cloninger は、発達によって変化していく部分を 性格(Character) と呼び、気質・性格理論(Temperament and Character Inventory: TCI)を構築しました。

気質(Temperament)の4次元

生まれ持った傾向としての気質には、以下の4つが含まれます(TCI に基づく):

  1. 新奇性追求(Novelty Seeking)
    新しい刺激を求め、挑戦や探索をしやすい性質

  2. 損害回避(Harm Avoidance)
    不確実性を恐れ、回避行動を取りやすい性質

  3. 報酬依存(Reward Dependence)
    他者からの承認や賞賛によって行動を維持しやすい性質

  4. 固執(Persistence)
    一度始めたことに粘り強く取り組む性質(TPQには含まれず、後のTCIで追加された)

こうした気質は乳幼児期から個人差として表れ、大人になっても一定の連続性を持つとされています。

乳幼児期の気質の個人差

例えば、赤ちゃんでも大きな音に反応せず落ち着いている子もいれば、小さな音でも泣き出す子もいます。新しい刺激に積極的に手を伸ばす子もいれば、慎重で手を出さない子もいます。これらは生まれ持った気質の個人差の例です。

性格(Character)の3次元

一方で、経験や学習を通じて形成される 性格 には次の3つがあります:

  1. 自己指向(Self-Directedness) – 自律的で目的を持ち、責任感をもって行動する性質

  2. 協調性(Cooperativeness) – 共感的で他者と協力的な性質

  3. 自己超越(Self-Transcendence) – 超越的存在や自然との一体感を持ちやすい性質

これらは成長や社会的経験を通じて発達するものであり、変化可能性を持つ側面とされます。

レジリエンスにおける気質と性格

この視点から考えると、レジリエンスを構成する要素にも、生得的に備わった変わりにくい要素(気質に近い部分)と、学習や経験を通じて身につけやすい要素(性格に近い部分)があると推察されます。

二次元レジリエンス要因尺度

日本の心理学者・平野真理らは、この考え方を踏まえて「二次元レジリエンス要因尺度」を開発しました。ここでは、レジリエンス要因を次のように整理しています:

  • 資質的要因(気質に関連)
    ・変わりにくい
    ・例:楽観性、統制力(感情調整の得意さなど)

  • 獲得的要因(性格に関連)
    ・身につけやすい
    ・例:問題解決志向、対処スキル

大規模調査による知見

平野らによる日本人成人約5,000名を対象とした調査では:

  • 資質的要因・獲得的要因のいずれにおいても、年齢とともに平均値が上昇する傾向が確認されました。

  • つまり、生得的要素とされる資質的要因においても、レジリエンスは発達に伴い適応的な方向へ変化していく可能性があると考えられます。

変化のスパン

ただし、同一対象者に2年間隔で調査を行った研究では、平均的には大きな変化は見られませんでした。これは、年齢に伴う変化には長期的な時間スパンを要することを示しています。
一方で、個人によっては2年間で有意な変化が見られる例もあり、発達的変化には個人差があることも確認されました。

自己理解への応用

パーソナリティには変わりにくい部分と変わりやすい部分があり、レジリエンスにも同様に両側面があります。

例えば、

  • 頑固さ

  • 感情の豊かさ

  • 他者と一緒にいることを好む性質

  • 諦めやすさ、あるいは粘り強さ

これらの性格特性は、逆境に直面した際のレジリエンスの発揮のされ方に大きく影響します。自分自身の性格の特徴を理解することは、どのようなレジリエンスを発揮しやすいかを知る手がかりとなります。