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ライフステージによるレジリエンスの質的変化 - 幼児期から学童期へ #放送大学講義録(レジリエンスの科学第4回その3)

ーーーー講義録始めーーーー

 

第1部 発達段階によって異なるレジリエンス

発達的視点から見たレジリエンスの特徴については、まだ多くのことが十分に解明されていません。しかし、人の発達に伴ってレジリエンスのあり方はどのように変化していくのでしょうか。
発達心理学者エミー・ワーナー(Emmy E. Werner)は、ハワイ・カウアイ島で行った縦断的研究(Kauai Longitudinal Study)により、レジリエンスが発達段階によって異なる形で現れることを示しました。


第2部 幼児期のレジリエンス

基本的特徴

幼児期の子どもは、ほとんどのことを自分の力で解決することができません。困難な状況に直面しても、それを自力で克服することは難しい段階です。
したがって、この時期におけるレジリエンスは、周囲の大人からの援助をうまく引き出す力として現れます。

重要なレジリエンス要素

この段階で特に重要なのは、自分をケアしてくれる大人から肯定的な反応を得られるような気質的特徴を持つことです。
例えば次のような特徴が挙げられます:

  • 活発である

  • 愛嬌がある

  • 感情表現が豊かである

こうした子どもは、周囲からの支援や関心を得やすく、結果としてレジリエンスが高まりやすい傾向にあります。

発達する力

このような経験を通じて、

  • 必要なときに他者に助けを求める力(援助要請力)

  • 徐々に自ら対処しようとする自律性

が育まれていきます。


第3部 学童期のレジリエンス

主要な要素

学童期においては、次のような能力がレジリエンスの中心となります。

  1. 認知的能力
     問題解決力を持ち、自分の置かれた状況を客観的に評価できること。

  2. 社会的能力
     コミュニケーション能力や感情理解の力を持ち、他者と良好な関係を築けること。

  3. 自己概念の発達
     趣味や学びを通して自己効力感を得、自尊感情を形成できること。


第4部 エリクソンの発達理論との対応

これらの発達的変化は、エリクソン(Erik H. Erikson)の心理社会的発達理論における各段階の課題と密接に関連しています。

  • 乳児期(Infancy):基本的信頼 vs 不信(Basic Trust vs Mistrust)
     この段階では「他者に安心して委ねられるか」が課題であり、幼児期のレジリエンス要素である「ケアを引き出す力」と重なります。

  • 学童期(School Age):勤勉性 vs 劣等感(Industry vs Inferiority)
     努力して成し遂げる経験を通して「自分はできる」という感覚を持つことが求められ、学童期のレジリエンス要素である「問題解決力」や「自己効力感」と対応します。


第5部 レジリエンスの本質的理解

このように、レジリエンスは発達段階によってその内容や求められる力が異なります。
その時期に社会の中で必要とされる発達課題が、そのまま逆境を乗り越えるためのレジリエンスとして機能しているのです。

つまり、レジリエンスとは発達課題を通して形成される適応力であり、年齢や発達段階によってその質が変化していくと理解できます。