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思春期から高齢期までのレジリエンス ― 発達段階ごとの特徴 #放送大学講義録(レジリエンスの科学第4回その4)

ーーーー講義録始めーーーー

 

思春期から高齢期までのレジリエンス ― 発達段階ごとの特徴

レジリエンスの両面性

レジリエンスは、各発達段階において必ずしも肯定的な姿だけを見せるわけではないという指摘があります。


思春期・青年期のレジリエンスの複雑性

生存戦略としてのレジリエンス

例えば、極度に困難な社会環境で育つ思春期の子どもにとっては、周囲からの暴力や抑圧に対抗するために、攻撃的な行動や孤立といった一般的には不適応とされる行動を取る場合があります。
しかし、それはその状況を**生き延びるための適応的戦略(サバイバル・レジリエンス)**として機能している可能性もあります。
このように、レジリエンスは必ずしも社会的に望ましい形で表れるとは限らず、状況に応じた多様な表現を取ることがあります。


レジリエンス戦略の硬直化

幼少期に身に付けたレジリエンス戦略が、その後も変化せず固定化すると、かえって不適応的な結果をもたらすことがあります。
例えば、小さい頃に「大人に助けてもらうことで問題を解決する」という方法で安全を確保してきた子どもが、青年期以降も同じ方法に頼りすぎると、自立や対人関係の形成に支障をきたす場合があります。


戦略の更新の重要性

一時的には有効であった自己防衛的な戦略(例:人を信頼しない、自立しすぎるなど)も、成長とともに柔軟に更新していくことが求められます。
思春期以降の発達課題は、「自分を守る」から「他者と関わりながら自分を形成する」へと移行していきます。
この過程で、より健康的で社会的なレジリエンス戦略を身に付けることが重要です。


成人期のレジリエンス

成人期は、パーソナリティが成熟の原則に従って適応的に変化する時期です。
経験を重ねることで、以下のような特徴が見られます:

  • 多様な経験の蓄積

  • 問題解決能力の向上

  • 柔軟なコーピング戦略の獲得

  • 社会的ネットワークの拡充

これにより、成人期のレジリエンスはより統合的・実践的なものとなっていきます。


高齢期のレジリエンス

日常的なレジリエンスの特徴

高齢期のレジリエンスは、ポジティブな感情体験を通じてストレスから回復する能力に特徴があります。
小さな喜びや感謝を感じ取るパーソナリティ的傾向が、レジリエンスを支える重要な基盤となります。


高齢者のレジリエンスに関する研究知見

65歳以上の高齢者と若年層を比較した研究(例:Hildon et al., 2010)では、次のような知見が報告されています:

  • 逆説的な結果:身体的疾患を経験している高齢者ほど、主観的レジリエンス得点が高い傾向にある

  • 能力の比較:高齢者は若年層に比べ、感情制御能力と問題解決能力が高い一方、ソーシャルサポートを求める傾向は低い

  • 重要要因:レジリエンスを高く保つうえで最も重要なのは、「絶望感を持たないこと」であった


高齢期のレジリエンスの理解

これらの研究から、以下の点が示唆されます:

  • 経験知の蓄積:長年の経験を通して、困難に自力で対処できる問題解決的レジリエンスが形成される

  • 希望の維持:将来に対して希望を持ち続けることが、精神的安定と回復力を高める要因である


まとめ

レジリエンスは発達段階によってその形が異なります。
幼少期の依存的レジリエンスから、青年期の自立的レジリエンス、そして高齢期の統合的・内省的レジリエンスへと質的に変化していきます。

困難に直面したとき、私たちはどのような対処を用いているでしょうか。
かつて「絶対に許せない」と思っていたことを今は受け流せるようになったとき、それは心理的成長の一形態です。
また、かつては人を頼れたが今は頼れない、あるいは逆に以前より頼れるようになったという変化も、発達的レジリエンスの一部といえます。
年齢や社会的役割に応じて求められる適応の形が変化する中で、レジリエンスもまた柔軟に進化し続けるのです。