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レジリエンスの発達を支える社会へ ― まとめと展望 #放送大学講義録(レジリエンスの科学第4回その7)

ーーーー講義録始めーーーー

 

本講義の振り返り

本日は、「レジリエンスの科学」シリーズ第4回の最終講義として、「レジリエンスの発達」というテーマを総括します。


1. パーソナリティの発達的変化

レジリエンスを含むパーソナリティは、発達に伴い適応的な方向へ成熟していく傾向があります。
McCrae & Costa(1999)の「成熟の原則(Principle of Maturity)」によれば、
加齢とともに以下の変化が見られるとされています。

  • 神経症傾向(Neuroticism):低下

  • 外向性(Extraversion)、開放性(Openness)、協調性(Agreeableness)、勤勉性(Conscientiousness):上昇

レジリエンスも同様に、発達に伴ってより柔軟で適応的な形へと変化します。


2. 気質と性格の視点

パーソナリティには、変わりにくい**気質(Temperament)と、発達を通じて変化していく性格(Character)**があります(Cloninger, 1994)。
レジリエンスにおいても以下の二側面が見られます。

  • 資質的要因(変わりにくい部分):楽観性、統制力など

  • 獲得的要因(変わりやすい部分):問題解決志向、柔軟性など

これらは生得的特性と経験的学習の両方に根ざしており、発達の中で相互に影響します。


3. ライフステージによる質的変化

レジリエンスは年齢ごとに異なる課題や社会的期待に応じて質的に変化します。

  • 幼児期:ケアを引き出す気質、助けを求める力

  • 学童期:問題解決能力、自己効力感

  • 青年期:柔軟な戦略の更新

  • 成人期:経験の蓄積と統合

  • 高齢期:感情制御、問題解決能力、希望の維持

このように、レジリエンスは「発達課題(developmental tasks)」と密接に関連しています(Erikson, 1963)。


4. 教育による変化の方向性

教育や心理的介入によってレジリエンスを高めるアプローチは、次の2軸で整理されます。

  • 増加(Acquisition):新たなスキルやコーピングを獲得する

  • 顕在化(Activation):もともと持っている力に気づき、発揮する

また、広がりの方向性としては、

  • 個人内の広がり(自己理解・自己成長)

  • 他者との広がり(相互理解・共感・支援)
    が挙げられます。


レジリエンスの本質的理解

これまでの講義を総合すると、レジリエンスとは単なる「立ち直り」ではなく、意味づけと関係性のプロセスです。

  • プロセスの多様性:回復の軌跡や方法は個人ごとに異なる

  • 個人差の質的理解:単に強弱ではなく、その人特有のパターンとして理解する

  • 発達的変化:成長とともに変化できる場合とできない場合がある

  • 他者の重要性:レジリエンスは人との関係の中で機能する


社会への示唆

レジリエンスを社会全体で育むために必要なのは、「正しい方法」を一律に教えることではありません。
むしろ以下の3原則が鍵となります。

① 多様性の尊重

  • 他者の異なるレジリエンスの形を認める

  • 回復のペースや方法の違いを受け入れる

② 相互支援

  • 補い合い、支え合うネットワークを構築

  • 互恵的関係性の中での相互成長

③ 個別性の発揮

  • 一人ひとりが自らの強みを発揮できる社会環境

  • 社会に余裕を持てる制度設計


レジリエンス教育への応用

学校教育

  • 画一的でなく個性を活かす教育

  • 発達段階に応じたプログラム設計

  • 協働学習を通じた支援・理解の促進

家庭教育

  • 子どもの気質に合わせた関わり

  • 失敗や困難から学ぶ機会の提供

  • 感情を受け止める関係性の構築

地域社会

  • 多様性を認める文化の醸成

  • 世代間交流による知恵の継承

  • セーフティネットの整備と地域共助


支援者への示唆

  • 個人のレジリエンスへの「気づき」を促す

  • 発達段階を踏まえた支援計画

  • 教え込むより「引き出す」姿勢

  • 一方向でなく互恵的な関係性を重視

  • 長期的伴走を意識した支援


今後の研究課題

  • 各ライフステージでのレジリエンスの縦断的研究

  • 移行期(幼児期→学童期、青年期→成人期など)の詳細分析

  • 文化差・個人差の要因分析

  • エビデンスに基づく教育プログラム開発

  • 多職種連携による実践的モデル構築


実践への応用:具体的提言

教育現場

  • 強みに焦点を当てた教育

  • 多様な成功体験の提供

  • 失敗を学びに変える文化づくり

地域社会

  • 世代間交流の促進

  • 居場所の多様化と包摂

  • 相互支援ネットワークの強化

家庭

  • 気質を理解した関わり

  • 挑戦と支援のバランス

  • 感情の受容と安心感の提供


一人ひとりができること

  • 自己理解を深め、自分の回復力を認識する

  • 他者のレジリエンスを学び合う

  • 社会的つながりを意識し、日常で実践する


結びに

レジリエンスは個人の中に閉じた能力ではなく、関係性と社会の中で育つ力です。
多様性を尊重し合いながら、それぞれが自分らしい形でレジリエンスを発揮できる社会を築いていくことが、
これからの心理学・教育学の使命と言えるでしょう。


参考文献

  • Werner, E. E. & Smith, R. S. (1982). Vulnerable but Invincible.

  • Cloninger, C. R. (1994). Temperament and Character Inventory (TCI).

  • Erikson, E. H. (1963). Childhood and Society.

  • McCrae, R. R. & Costa, P. T. (1999). A Five-Factor Theory of Personality.

  • Masten, A. S. (2014). Ordinary Magic: Resilience in Development.