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日本の労働時間規制の変遷と36協定の成立 #放送大学講義録(雇用社会と法第6回その2)

ーーーー講義録始めーーーー

 

労働基準法制定時の状況

労働基準法の制定当時、日本は1日8時間・週48時間制を採用しました。戦後復興期には、経済再建の観点から「1日8時間は短すぎるのではないか」との意見もありましたが、最終的には時間外・休日労働を可能にする仕組みとして、労働基準法第36条に基づく労使協定(いわゆる36協定)を締結・届出した場合に限り、法定時間を超える労働を認めるという枠組みが整えられました。加えて、法定時間外や法定休日、深夜に労働させたときは**割増賃金(労基法37条)**の支払いが義務づけられています。日本法令外国語訳データベース+1

もっとも、数値上の厳格な上限(罰則付き)は長らく法律に明記されず、行政の告示(限度基準告示)等で運用されてきました。この点は2019年の働き方改革関連法により、罰則付きの上限規制が導入されることで大きく転換しました。厚生労働省

高度経済成長期と長時間労働の常態化

高度経済成長期には、長期雇用・職務非限定を特徴とするメンバーシップ型雇用が広がり、需要変動時の調整を労働時間に求める企業運用も相まって、長時間労働が社会的に常態化しました。1980年代には、日本の労働時間の長さが国際的な競争条件を歪める「ソーシャル・ダンピング」として批判される議論が高まり、時短(週40時間制)への政策転換が進みます。実際、1987年改正労基法は週48時間から週40時間への短縮を打ち出し、当面週46時間などの経過措置を設けつつ、その後の改正で週40時間制が本格施行されました。東京大学+2

メンバーシップ型雇用と長時間労働

日本の雇用システムの特徴は職務・勤務地・時間等の限定が弱いメンバーシップ型であり、人員調整よりも労働時間調整で需給に対応する運用が少なくありませんでした。その結果、人手不足期や繁忙期に時間外労働が累積しやすい構造が生じ、長時間労働の常態化を招いた側面があります。もっとも、これは制度(36協定)・運用(労使慣行)・産業構造・景気局面など複数要因の相互作用として理解するのが適切です。(制度枠組み自体は上記のとおり第36条協定+第37条で構成。)日本法令外国語訳データベース+1

サービス残業と過労死問題

いわゆる**サービス残業(未払い残業)**は、**法定時間外労働に対する割増賃金の支払義務(労基法37条)**に反する行為であり、未払い賃金の支払い等の是正が求められます。深夜・休日労働にも所定の割増率が法定されており、企業には適切な労務管理が求められます。

長時間労働の背景には、「人事評価や昇進等で将来的に報われる」という期待や職場文化が作用する場合もありますが、長時間労働は健康影響や安全配慮義務の観点から重大なリスクを伴います。日本では過労死(karoshi)が国際的にも問題概念として認知されており、政府・労使・社会全体での是正が課題とされています。International Labour Organization

最近の法改正と上限規制の明確化

働き方改革関連法により、罰則付きの時間外労働の上限が法定化されました。原則として月45時間・年360時間、特別条項があっても**(時間外+休日の合計で)月100時間未満、2~6か月平均80時間以内、年720時間以内等が適用されます(研究開発業務等の一部除外規定あり)。これにより、長年の告示ベース運用から法定上限へ**と転換が図られています。厚生労働省+1