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労働契約法とワークライフバランスの理念 #放送大学講義録(雇用社会と法第7回その2)

ーーーー講義録始めーーーー

 

では、1つ目のテーマである「仕事と生活の調和」について見ていくことにしましょう。
ここでは、労働契約法第3条第3項が定めている「労働生活の調和」の観点について考えていきます。

これまで、どのような働き方で成果を上げるかという問題は、主として各企業に委ねられてきました。そのため、一部の企業では先進的な取り組みが進んだものの、社会全体としての広がりは十分ではありませんでした。
しかし、2000年代後半以降、**仕事と生活の調和(ワークライフバランス)の必要性が強く認識されるようになりました。特に2007年に策定された「仕事と生活の調和推進行動指針」(内閣府)**が、その政策的転機となりました。

日本の働き方を持続可能なものにしていくためには、次の3つの課題が指摘されています。


1. 働き方の二極化と固定的性別役割の残存

まず、働き方の二極化が進んでいる点です。
競争の激化や経済の停滞、産業構造の変化を背景に、正社員の長時間労働が高止まりする一方、非正規雇用が拡大しています。かつて家庭での女性の役割は専業主婦が大半を占めていましたが、現在では共働き世帯が増加しています。
それにもかかわらず、働き方や子育てを支える社会的基盤は十分に整備されておらず、男女の固定的な役割分担意識が依然として強く残っています。その結果、家庭的な責任が女性に偏り、仕事と生活の調和を実現することが困難な状況が続いています。


2. 仕事と生活の不均衡による疲弊

次に、仕事と生活の間で問題を抱える人の増加です。
長時間労働や過密な業務によって、心身の疲労や家族団らんの欠如といった問題が生じています。
また、働き方の選択肢が限られているために、仕事と子育ての両立が難しいと感じる人が増えています。こうした状況は、働く人々の健康や生活の質を損ない、社会全体の生産性にも悪影響を与えています。


3. 少子化と労働力確保の課題

三つ目は、少子化対策と労働力確保が社会的課題となっている点です。
結婚や子育てに関する希望が実現しにくくなっており、これが急速な少子化の一因になっています。
さらに、働き方の選択肢が限られていることで、女性や高齢者、障害者など多様な人材が十分に活用されていないという問題もあります。

日本では現在、少子化の改善と労働力の確保が重要な政策課題となっています。近年、結婚を希望しない人や、子どもを持つことを望まない人が増えていますが、問題は「希望しても実現できない人」が増加している点にあります。
個人の生き方の自由を尊重しつつも、希望しても結婚や出産が実現しない事態を社会として是正する必要があります。そのためには、個人のライフステージに応じて多様な働き方を選択できる仕組みが必要です。


持続可能な社会への方向性

少子高齢化が進行する日本社会においては、男性のみならず、女性、高齢者、障害者、外国人労働者など、多様な人々が働きやすい社会を実現することが求められています。
少子化の背景には、結婚・出産・子育てに関する希望と現実の乖離があり、特に男女の役割分担意識が強い社会では、「働き続けること」と「結婚・出産・子育て」が二者択一になりがちな構造的問題があります。
これを解消するためには、保育サービスや子育て支援策の充実が不可欠であり、これは女性だけでなく男性の働き方の見直しも含む課題です。

つまり、仕事と生活の調和は、男女双方の生き方を問い直す社会的テーマであり、労働契約法が掲げる「労働生活の調和」理念の中核的価値といえるでしょう。