ーーーー講義録始めーーーー
では、第3のテーマである休暇・休業について見ていくことにしましょう。
ここでは、年次有給休暇と育児・介護休業の制度および課題について確認します。
年次有給休暇(労働基準法第39条)
労働基準法39条1項は次のように定めています。
「使用者は、雇入れの日から起算して6か月以上継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割して10労働日以上の有給休暇を与えなければならない。」
この制度の趣旨は、労働者の心身の回復と余暇の保障にあります。
年休の法的性格については、判例・学説上、次の3点に整理されています。
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法定要件を満たした時点で当然に発生する権利であり、労働者の時季指定により休暇の効力が発生すること。
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使用者が事業の正常な運営を妨げる事由を理由に時季変更権を行使した場合には、その時季の年休権は行使できないこと。
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年休の利用方法は、使用者の干渉を受けない労働者の自由に委ねられていること。
(※出典:最判昭和62年7月17日・電電公社帯広局事件)
年次有給休暇の付与日数と比例付与制度
正社員などのフルタイム勤務者の場合、6か月継続勤務で10日付与され、1年ごとに1〜2日増加し、6年6か月以上で20日に達します。
これは法定最低基準であり、企業によっては上乗せ制度を設けている場合もあります。
短時間労働者・パートタイム労働者にも、勤務日数に応じて比例付与されます。
(例:週3日勤務の場合、6か月後で5日付与)
年休取得率と時季指定義務(労基法39条7項)
厚生労働省の調査によれば、2017年の年休取得率は51.1%で、2022年時点でも62.1%にとどまっています。
依然として年休が十分に消化されていないことが問題です。
こうした状況を受け、2019年4月施行の改正により、年5日の時季指定義務(労基法39条7項)が導入されました。
すなわち、年10日以上の年休が付与される労働者については、使用者が時季を指定して5日以上取得させる義務が課されました。
この制度は、労働者の休暇取得を実質的に促進する重要な改革といえます。
育児・介護休業制度
次に、育児介護休業法による制度を見ていきましょう。
少子化が進行する中で、育児休業は子育て支援策の柱となっています。
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育児休業:原則として子が1歳に達するまで取得可能。一定の要件下では最長2歳まで延長可。
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介護休業:対象家族1人につき通算93日を上限に、3回まで分割取得可能。
また、同法では次のような規定があります。
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短時間勤務措置
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時間外・深夜労働の制限、所定外労働の免除
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子の看護休暇・介護休暇
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介護のための転勤に関する配慮義務(第26条の2)
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不利益取扱いの禁止(第10条等)
これらにより、育児・介護と就労の両立を支援する法的枠組みが整備されています。
国際的にも、わが国の育児休業制度は比較的充実した水準にあります。
育児休業の取得状況
しかし、現実には取得が進んでいない面もあります。
厚生労働省の統計によると、女性の育児休業取得率は約80%ですが、男性は2016年度で3.16%、2022年度でも17.1%にとどまっています。
依然として男女差が大きいのが現状です。
性別役割分担意識と家事・育児時間の現状
「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきだ」という考え方に「賛成」と答える割合は、1979年には7割を超えていましたが、2014年には約4〜5割まで減少しました。
それでもなお、性別役割分担意識は根強く残っていることがわかります。
家事・育児時間の国際比較を見ると、日本の男性の家事・育児時間は先進国の中で最低水準です。
結果として、女性の負担が大きく、女性の社会進出の阻害要因となっています。
参考文献紹介:アン=マリー・スローター『仕事と家庭は両立できない?』
プリンストン大学教授であり、オバマ政権下で国務省政策企画局長を務めたアン=マリー・スローター氏の著書『仕事と家庭は両立できない?』(NTT出版、2017年)は、
「父親の平等なくして女性の平等なし」という視点を提示しています。
育児や家庭生活を女性の責任とする社会的構造を問い直し、職場全体の改革を求めています。
仕事と家庭の両立を「個人の努力」ではなく「社会の仕組み」の問題として捉える点が示唆的です。
まとめ ― 仕事と生活の調和を実現するために
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仕事と生活の調和の理念
労働契約法第3条3項が掲げるように、ワークライフバランスは労働法上の重要理念です。 -
人事異動の課題
広域転勤や単身赴任などの慣行は、生活面の負担を伴うため見直しが求められます。 -
休暇・休業の推進
年次有給休暇や育児・介護休業の取得を進めるためには、男女を問わずライフスタイルの変革と職場文化の改革が不可欠です。



