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間接差別と母性保護 #放送大学講義録(雇用社会と法第8回その4)

ーーーー講義録始めーーーー

 

間接差別の禁止

次に、間接差別について確認しましょう。
先ほど扱ったのは、性別を理由とする直接差別でしたが、間接差別とは、一見すると性別と関係がないように見えても、実質的には特定の性別に不利益な結果をもたらす取扱いを指します。形式上中立でも、結果として女性(または男性)を不利に扱うような行為がこれに該当します。

この考え方は、アメリカの**「ディスパレート・インパクト理論(disparate impact theory)」に由来し、日本では2006年(平成18年)の男女雇用機会均等法改正**により導入され、2007年4月から施行されました。

男女雇用機会均等法第7条および施行規則第2条の2により、禁止される間接差別の代表的な3類型は以下の通りです。

  1. 募集・採用時に一定の身長・体重・体力を要件とすること

  2. 総合職の募集・採用・昇進・職種変更にあたって、転勤(住居移転を伴う配置転換)に応じることを要件とすること

  3. 昇進の条件として、他の事業所への配置転換の経験を要件とすること


1つ目の類型:身長・体重・体力条件

たとえば、採用時に「身長170cm以上」といった条件を設けると、平均的に身長の高い男性が有利になり、女性が不利になります。このような場合、性別を表面上は問わなくても、結果として性差別的効果を持つため、間接差別と判断される可能性があります。

2・3の類型:転勤要件と家族責任

2と3の要件は「家族責任」と密接に関連しています。転勤経験を昇進の条件とする企業慣行は、依然として男性中心のキャリアモデルに依拠しており、家庭責任を担う女性に不利な効果をもたらします。
そのため、こうした転勤要件を選考・昇進基準とすることは間接差別に該当します。
もっとも、業務遂行上合理的な理由がある場合(例:全国転勤型総合職で地域戦略上必要な場合)には、間接差別には当たらないとされています。

このように、形式的な平等の名の下に実質的な不平等を生じさせる構造を防ぐことが、間接差別禁止の趣旨です。


母性保護

次に、男女の差異のうち、妊娠・出産という生物学的要因に基づく部分について見ていきましょう。
労働基準法や男女雇用機会均等法は、母性の保護や母性健康管理のための措置を定めています。


1. 産前・産後休業(労働基準法第65条)

  • 産前休業:出産予定日の6週間前(双胎以上の場合は14週間前)から、本人の請求により休業可能。

  • 産後休業:出産日の翌日から8週間は就業禁止。ただし、産後6週間を経過後、本人が希望し、医師が支障なしと認めた場合のみ就業可。

  • 解雇制限:使用者は、産前産後休業期間およびその後30日間において、労働者を解雇してはなりません(労基法第19条第1項)。


2. 妊娠中の就業制限(労働基準法第66条、施行規則第22条の3)

妊娠中の女性労働者は、申出により以下の措置を受ける権利があります。

  • 時間外労働・休日労働・深夜労働の免除請求

  • 変形労働時間制の適用除外の請求

  • 軽易な業務への転換請求

また、労働基準法第64条の3では、妊娠中および産後1年以内の女性が危険有害業務(鉛・放射線・有毒物等)に従事することを禁止しています。

男女雇用機会均等法第13条は、母性健康管理措置を定め、妊娠・出産に関する医師等の指導に基づいて必要な勤務軽減や休暇を取れるよう、事業主に措置義務を課しています。


3. 出産後の就業制限・育児時間(労働基準法第67条)

出産後、女性労働者には次の権利が認められています。

  • 育児時間:生後1年に達しない子を育てる女性は、1日2回、各30分の育児時間を請求できる。

  • 時間外・休日・深夜労働の制限

  • 変形労働時間制の適用除外

  • 危険有害業務への就業禁止

また、医師の指導に基づき、健康診査や休養に必要な時間を確保することも認められています。


4. 育児・介護休業法に基づく支援制度

母性保護の延長として、育児・介護休業法に基づき、次のような制度が整備されています。

  • 短時間勤務制度(育児休業後の復職支援)

  • 子の看護休暇制度(1年に5日、複数子は10日)

  • テレワーク・時差勤務の導入推進

これらの制度は、男女問わず子育てと仕事の両立を可能にする仕組みとして位置づけられています。


📊 図表:母性保護に関する主な法的措置

区分 根拠法令 内容 権利の性質
産前休業 労基法第65条1項 出産予定6週間前から請求可(双胎14週前) 任意的
産後休業 労基法第65条2項 出産後8週間就業禁止(6週経過後医師承認で可) 強制的
解雇制限 労基法第19条1項 休業中および30日後まで解雇禁止 絶対的
時間外・深夜労働免除 労基法第66条 妊娠中・出産後請求可 任意的
軽易業務転換 労基法第66条2項 妊娠中・産後申出可 申出制
育児時間 労基法第67条 1日2回各30分 請求権
子の看護休暇 育児・介護休業法第16条の2 年5日(2人以上10日) 権利的休暇

まとめ

間接差別は「形式的平等による実質的不平等」を是正する制度であり、母性保護は「生物学的差異に基づく合理的配慮」を保障する制度です。
両者は「平等の実現」という共通目的のもと、法的平等(de jure)から実質的平等(de facto)への転換を示す重要な仕組みといえます。