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妊娠・出産を理由とする不利益取扱いの禁止と男女格差の実態 #放送大学講義録(雇用社会と法第8回その5)

ーーーー講義録始めーーーー

 

妊娠・出産を理由とする不利益取扱いの禁止

実際の職場では、**妊娠・出産を理由とする不利益取扱い(いわゆるマタニティ・ハラスメント)**が問題となることがあります。
男女雇用機会均等法第9条第3項は、次のように定めています。

「事業主は、女性労働者が妊娠、出産、産前休業、産後休業、または母性健康管理措置を申し出たことなどを理由として、解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。」

この規定は、妊娠や出産を理由とする降格、解雇、賃金引下げ、雇止めなどを禁止するものです。
もし不利益取扱いが行われれば、女性は妊娠や出産をためらうようになり、結果的に労働市場からの退出を招くことになります。


広島中央保健生活協同組合事件(最高裁平成26年10月23日)

この判例は、妊娠を契機とした降格処分の有効性が争われた重要な事案です。

原告は、病院で勤務する理学療法士であり、妊娠を理由に軽易業務への転換を請求しました。
しかし、復職後、元の「副主任」職に戻されず、降格扱いとなったため、これが均等法第9条第3項違反であると主張して損害賠償を請求しました。

第一審・控訴審はいずれも原告敗訴でしたが、最高裁は原審を破棄し差し戻しました。
最高裁は次のような判断枠組みを示しています。

降格の措置が、①労働者の自由な意思に基づく承諾により行われた合理的なもの、または②業務上の必要性その他特段の事情に照らして、均等法第9条に違反しないと認められる場合を除き、違法である。

この判決は、妊娠・出産を理由とする人事上の不利益取扱いについて、厳格な判断基準を示した画期的判例です。
同時に、事業主には、妊娠・出産期の労働者に対して丁寧な説明と合意形成の努力義務が求められることを明確にしました。
なお、このような行為は民法第709条の不法行為として損害賠償責任を問われることもあります。


男女格差の実態

ここまで雇用平等のルールを学びましたが、では実際の日本社会ではどのような格差が存在しているのでしょうか。
統計資料から、男女の雇用実態を確認してみましょう。


1. 男女の賃金格差

厚生労働省『賃金構造基本統計調査(2019年)』によると、
男性労働者の平均賃金は33.8万円、女性は25.1万円であり、女性の賃金水準は男性を100とした場合74.3となっています。
この比率は過去最高水準で、徐々に格差が縮小しているものの、依然として大きな開きがあります。

さらにOECDの2015年データによれば、フルタイム雇用者における男女間賃金格差は次の通りです。

国名 男女賃金格差(%)
日本 25.7
アメリカ 18.9
カナダ 18.6
イギリス 17.1
ドイツ 17.1

この比較から、日本はG7諸国の中で最も賃金格差が大きいことがわかります。


2. 管理職における女性比率

次に、管理的職業従事者に占める女性の割合を見てみましょう。
総務省『労働力調査』(2019年)によると、女性就業者全体に占める割合は他国と同水準である一方、
管理的職業従事者のうち女性の割合は14.9%にとどまっています。
各国平均と比べると依然として低く、日本では女性の管理職登用が遅れている
実態が明らかです。


3. ジェンダーギャップ指数(Global Gender Gap Index 2020)

スイス・ジュネーブの世界経済フォーラム(WEF)が公表したジェンダーギャップ指数2020によると、
日本の順位は153カ国中121位でした(前回2018年は149カ国中110位)。

分野別順位は次の通りです。

分野 日本の順位 主な要因
経済活動への参加・機会 115位 賃金格差・管理職比率の低さ
政治への参加 144位 女性議員・閣僚比率の低さ
教育 91位 高等教育進学率に男女差
健康・生存 40位 医療アクセスの均等化進展

この結果から、日本のジェンダー平等は総合的に先進国の中でも低水準にとどまっています。
特に、経済・政治分野での女性の進出が遅れている点がスコアを押し下げています。


📊 図表:日本の男女格差の現状(主要統計)

指標 年次 数値 備考
男女賃金格差(女性/男性) 2019年 74.3% 厚労省調査
管理職に占める女性割合 2019年 14.9% 総務省『労働力調査』
ジェンダーギャップ指数 2020年 121位/153カ国 WEF報告書
政治分野スコア 2020年 144位 女性国会議員比率低水準
経済分野スコア 2020年 115位 賃金・昇進格差大

まとめ

妊娠・出産を理由とする不利益取扱いの禁止は、形式的な平等を超えて実質的平等を確保するための根幹規定です。
広島中央保健生協事件が示したように、事業主の恣意的な降格や処遇変更は厳しく制限されます。

また、統計的に見ても日本では依然として賃金格差・昇進格差が残存しており、
法制度の遵守と企業文化の転換の双方が求められています。
今後は「妊娠・出産を理由にキャリアを断たれない社会」の実現が焦点となるでしょう。

 

参考文献(根拠)

  • 男女雇用機会均等法(昭和47年法律第113号)

  • 広島中央保健生活協同組合事件(最判平成26年10月23日・労判1095号5頁)

  • 厚生労働省『賃金構造基本統計調査』(2019年)

  • 総務省統計局『労働力調査』(2019年)

  • OECD “Gender Wage Gap” (2015)

  • 世界経済フォーラム『Global Gender Gap Report 2020』