F-nameのブログ

はてなダイアリーから移行し、更に独自ドメイン化しました。

年次有給休暇の権利保障 #放送大学講義録(雇用社会と法(’17)第8回その7)

ーーーー講義録始めーーーー

 

1. 生活時間の確保と年休権

労働者の生活時間の確保は、労働時間規制および年次有給休暇(年休)制度によって保障されます。
労働基準法第39条は、継続勤務6か月・全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、10日の年休付与を定めています。その後、勤続年数に応じて日数が増加し、**最大20日(勤続6年6か月以上)**まで付与されます。
この制度は、パートタイム労働者・有期契約労働者にも適用され、労災休業期間は出勤扱いとして出勤率計算に含まれます(昭和63年基発第150号通達)。


2. 継続勤務の考え方

年休権の前提となる「継続勤務」は、名義上の雇用契約の断続にかかわらず、実質的に同一事業主のもとで勤務している場合に認められることがあります。
たとえば、有期契約労働者の契約更新の際に短期の空白期間がある場合、または定年退職後に嘱託職員として再雇用された場合でも、実質的継続性が認められれば「継続勤務」として扱われることがあります(厚労省「有期契約労働者の年休取扱い指針」)。


3. 年休権の成立と時季変更権

年休権は、労働者の請求(時季指定)によって具体的に発生します。
ただし、労働基準法第39条第5項により、使用者は「事業の正常な運営を妨げる場合」に限って時季変更権を行使することができます。
したがって、使用者は代替要員の確保や業務調整の努力を尽くしたうえでのみ、変更を主張できるとされます。
なお、所定労働日数の少ない労働者については、比例付与制度に基づき、週労働日数に応じて年休日数が減少します。


4. 年休取得の目的と自由

年休の取得目的は、原則として自由です。
白石営林署事件(最高裁昭和48年3月2日判決)では、労働者が労働争議支援を目的として年休を取得した事例においても、原則論としてその自由を認めました。
年休は、抽象的権利として付与され、労働者の請求によって具体的権利に転化する「二段階構造」とされています。
使用者が時季変更権を行使した場合、その時季において年休権は実現しませんが、別時季における取得権は存続します。


5. 時季変更権の行使要件

時季変更権の行使が適法とされるかどうかは、業務運営上の必要性と労働者の権利保障とのバランスで判断されます。
裁判所は、以下の要素を考慮して判断します。

  • 従業員配置の現状

  • 代替要員の確保可能性

  • 業務の性質および規模

  • 使用者の要員計画の適正性

時事通信社事件(東京高裁昭和52年11月30日判決)では、要員が基準以下になる場合でも、応援者の配置で対応可能であったことから、年休請求を認めました。
一方で、恒常的な人員不足を理由とした時季変更権の濫用は違法と判断される傾向があります。


6. 長期休暇のケース

長期にわたる年休請求は、業務運営との調整が求められます。
時事通信社事件(最高裁昭和57年3月18日判決)では、ヨーロッパ取材のための1か月連続年休の請求が争われ、裁判所は「業務上の支障との調整を考慮すべき」としました。
また、日本電信電話株式会社(NTT)職員の集合研修中の年次有給休暇(年休)請求をめぐる事例(最高裁判所第二小法廷 平成12年3月31日判決)では、デジタル交換機の研修中に年休請求が行われましたが、「一部欠席により研修目的が達成できない」という理由から、使用者の時季変更権行使を適法としました。
このように、年休権の保障と使用者の業務運営上の必要性との調和的運用が求められます。


7. まとめ:年休権保障の意義

年次有給休暇制度は、単なる福利厚生ではなく、労働者の健康保持と生活時間の確保を保障する基本的人権的制度です。
年休取得率向上のためには、使用者による計画的付与制度の活用(労基法第39条第6項)や、職場文化の改善も重要です。
真の「ワーク・ライフ・バランス」実現には、年休の自由な行使を支える制度的・運用的基盤が不可欠です。

 

📊 図表:年次有給休暇の付与日数(労基法第39条)

勤続年数 付与日数
6か月 10日
1年6か月 11日
2年6か月 12日
3年6か月 14日
4年6か月 16日
5年6か月 18日
6年6か月以上 20日