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コルブの経験学習サイクルモデル #放送大学講義録 (成人の発達と学習第6回その6)

ーーーー講義録始めーーーー

 

ここまで経験の価値を見てきましたが、次は学習に焦点を当てて考えてみようと思います。学習プロセスの中で経験を重視することを「経験学習」という言葉で表現しようとするモデルはいくつか提案されていますが、ここではその代表的なものとして、アメリカの教育理論家・組織行動学者であるコルブのサイクルモデルを最初に紹介したいと思います。

キャリアガイダンスにおいてコルブの経験学習のサイクルモデルは有名なものですか。
コルブのサイクルモデルは、社会人の能力開発などでもよく取り上げられますね。

そうですね。コルブは経験学習について、次の6つの命題を提示しています。

  • 学習は結果ではなく、1つのプロセスとして考えることが最善である

  • 学習はすべて再学習である

  • 学習は、世の中への適応について対立する方法間の不一致への弁証法的解決を求める

  • 学習は世の中への適応の包括的なプロセスである

  • 学習は人と環境との相互作用により生じる

  • 学習は知識を生み出すプロセスである

この6つの命題と呼ばれるものに対して、下村さんは社会人の能力開発においてどの点が重要と思いますか。

はい。この6つの命題の中で3回出てくる「プロセス」という言葉ですね。これが一番重要だと思います。我々は社会人の能力開発という場合でも、どうしても学校で期末テストに向けて勉強したり、入学試験や資格試験に向けて勉強するといったことを思い浮かべてしまいます。そういう何らかの「点」としてのアウトカムだけを考えるのではなく、学習というものが一連のプロセスであって、食事をし、栄養をつけ、活動し、排泄するといった一連の過程として捉えるというのは、とても大事だと思います。

確かにこの「プロセス」という言葉が大事でしょうね。実際、コルブはこの命題に基づき、「学習とは、経験の変容を通じて知識が生み出されるプロセスである」と考え、印刷教材にある経験学習のサイクルモデルというものを提示します。

印刷教材をご覧ください。コルブのモデルは、具体的経験、そして省察的観察(reflective observation)――この「省察」は「反省と考察」と書き、振り返りを意味します。「しょうさつ」とも読みますが、ここでは一般的な読みである「せいさつ」に統一します――この省察的観察に至り、抽象的概念化を経て、能動的実験といった段階を踏む学習サイクルとして理論化され、概念化されています。

この考えによれば、行動がどのようなものであっても、能動的実験は新しい具体的経験となり、それを受けて学習サイクルが始まる循環的なモデルとなっているわけです。下村さん、このモデルは妥当なものと思われますか。

はい、妥当なものだと思います。というのも、全く新しいモデルを我々に提示しているというよりも、むしろ我々が自分が興味のあることとか熱中していることをやるときに自然に行っているプロセスをモデル化していると思うからです。

例えば、料理が好きな人は、自分でいろいろ工夫して試みをして具体的な経験をしてみます。それがうまくいったりいかなかったりすることを省察的に観察して振り返ってみます。そしてそこから、自分が試したこの料理の方法はよいのか悪いのかを抽象的に概念化します。さらに、次の能動的な実験に結びつく新しい工夫をそこから考え、次の試みに結びつけていきます。

自分が熱心にやっているものは、おおよそこのような形で、自分でやってみて工夫して、自分なりのコツや知恵を見つけ出していくことを楽しみにしているのではないでしょうか。それをきちんと整理してモデル化したのだと思います。

確かにそうですね。ところで、このモデルはその後さらに拡張されて複雑に論じられてきているような印象を受けますが、いかがでしょうか。

コルブの研究の中で自然に深められ複雑化していったものだと思いますので、もちろん意義は大いにあると思います。ただ、一番最初の「やってみて、振り返って、考えて、またやってみる」という素朴な循環するモデルそのものは、最も重要なものとして理解しておいて良いと思います。

そうですね。コルブのモデルや学習スタイルの分類に対しては、その妥当性や信頼性を批判する声も多くありますが、その一方で依然としてコルブの学習サイクルモデルは経験学習の代表として扱われています。Learning Style Inventory を含め、学習スタイル論には心理測定上の問題点が指摘されているものの、実務や教育現場で広く参照され続けていることからも、コルブのモデルは一定の意義を持つものなのでしょう。 

 

補助図:コルブの経験学習サイクル(簡易図)

 

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         │   具体的経験   │  Concrete Experience
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         │  省察的観察   │  Reflective Observation
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                   ↓
         ┌──────────────┐
         │ 抽象的概念化  │  Abstract Conceptualization
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                   ↓
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         │ 能動的実験    │  Active Experimentation
         └──────────────┘
                   ↓(新たな具体的経験へ循環)

 

この4段階のサイクルが、経験学習の典型的な循環プロセスとして整理されています。