ここでの「岩崎」は主任講師の岩崎久美子教授のことである。講義は2020より前に行われた模様。
ーーーー講義録始めーーーー
第4回のテーマは記憶と学習です。記憶は学習プロセスに大きく関わります。この講義では、記憶にはどのような種類があるのかを確認し、年齢を重ねることは記憶にどのような影響を及ぼすのか、記憶の特徴に着目して、成人学習において有効な学習方法について考えたいと思います。
今回は、神経心理学の専門家である放送大学沖縄学習センター所長の富永大介さんをゲストにお迎えしています。放送大学
岩崎:
富永先生、どうかよろしくお願いいたします。
富永:
はい、こんにちは。皆さんこんにちは。放送大学沖縄学習センターの所長をしております富永と申します。今日はよろしくお願いいたします。
岩崎:
さて、富永先生は神経心理学がご専門であり、脳と心に関わる臨床研究を長らくされてこられました。先生がご専門とされる神経心理学とは、あまり聞き慣れない領域ですが、どのようなものなのか教えていただけますでしょうか。
富永:
はい。受講生の皆様方の中には、放送大学が提供している心理学関連科目を受講している学生さんが多くおられると思います。心理学の学問内容は幅が広く、文系的なものから、より理系的な領域まであります。初心者の方にとっては、大変戸惑うところがあるかと思います。
神経心理学は、どちらかと言えば理系的な領域で、医学寄りの領域でもあります。私は、現在、神経心理学の中でも、より臨床寄りの神経心理学を専攻していますので、臨床神経心理学、英語で言えば Clinical Neuropsychology という分野ということになっています。
クリニカルとは、クリニックなどで日本語でも使いますよね。いわゆる臨床ということです。ニューロサイコロジーの「ニューロ」は、もともとギリシャ語の neuron(神経)に由来し、神経細胞(ニューロン)やそれを含む神経系全体を指す接頭辞です。神経細胞と、それを支えるグリア細胞からなる神経系のネットワークの集合体が、実際には脳を形作っています。
そして、サイコロジーの「サイコ」は、心、精神ということになりますので、神経心理学とは、「脳(神経系)と心(こころの働き、認知・感情・行動)の関係について研究する領域の学問」ということになります。これに「臨床」がつきますので、特に脳に何らかの損傷や障害を受けた方々について、脳と心の関係を心理学的な手法で評価・研究し、その結果を診断やリハビリテーションに生かしていく分野、ということになるわけでございます。
特に、脳に損傷を負うということは、器質的と言いますか、器質的障害と機能的障害という、両側面がございます。私の現在の臨床の場は、大学病院の患者さんが対象でございます。脳外傷や、神経内科の患者さん、それに、脳血管障害、脳腫瘍、パーキンソン病などの患者さんが対象であります。彼らは、脳に画像検査などで確認できるような器質的障害を持つ人たちです。
一方、精神科や、心療内科の患者さんは、伝統的には「器質的な病変がはっきりしないため機能的障害」と呼ばれてきましたが、近年では、うつ病や統合失調症など多くの精神疾患でも、脳ネットワークや脳機能、場合によっては脳構造に異常がみられることが、脳画像研究などから明らかになってきています。したがって現在では、「器質か機能か」という二分法というよりも、両者が連続的で相互に関係し合うものと捉えることが重要になっています。
私の病院での具体的な仕事は、このような患者さんの心理学的機能障害、特に記憶とか、言語とか、思考とか、注意機能などの、いわゆる認知機能障害の把握と、その時の脳の異常を画像診断を通して確認し、その脳と心の関係を評価することです。言い換えると、心理学的なアセスメント(神経心理学検査など)を通して、医学的治療やリハビリテーションに生かす仕事をしております。
脳の画像診断、特に、近年は MRI という、医学における革命的な画像診断法が広く用いられるようになりましたので、この領域の研究は飛躍的に進歩してきています。従来は病理解剖などでしか分からなかった脳と行動の関係が、生体のまま非侵襲的に観察できるようになったことが、神経心理学や臨床神経心理学の発展を大きく後押ししているのです。
岩崎:
はい、そうですか。富永先生のご専門の神経心理学は、お話を伺っておりますと、非常に医学に近い領域ですね。
富永:
そうなんです。
参考図表:器質的障害と機能的障害の整理(説明用)
| 区分 | おおまかな意味 | 典型的な例 | 現在の理解のポイント |
|---|---|---|---|
| 器質的障害 | 画像や検査で確認できる、脳の構造そのものの損傷・変性など | 脳外傷、脳血管障害(脳梗塞など)、脳腫瘍、パーキンソン病など | 神経細胞やネットワークの損傷が明瞭で、症状と対応しやすい |
| 機能的障害 | 明確な構造病変が目立たないが、脳の働き方・ネットワークの異常 | 一部の機能性神経障害(FND)、多くの精神疾患など | 近年は脳機能・ネットワークの異常が画像でも示されつつあり、「心だけの問題」ではないと理解されている |
(あくまで教育用の区分であり、実際の患者さんは両者の要素が重なり合うことが多い、と説明するのが現在の国際的な傾向です。
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