ーーーー講義録始めーーーー
成人が学習する目的
大人になってからの学習は、自分の意思や自発性によって行われます。では、皆さんのように成人になってから学習する人たちはどのような人たちなのでしょうか。
成人が学習する目的については、成人を対象に様々な研究が行われています。ここでご紹介するのは、アメリカで行われた Houle による研究です。
Houle は 22 人の成人を対象に、学習歴、継続的に学習する理由、価値観などを聞く、
かなり詳細なインタビューを行いました。そして、その結果に基づき、成人が学習する
目的を次の 3 つに分類しました。
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目標志向:目標を達成するために学習する
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活動志向:活動自体のため、あるいは人との交流のため学習する
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学習志向:知識自体を求める
Houle は、大人になってからの学習は、これら 3 つのうちのいずれか 1 つ以上によって動機づけられているとしました。
学習を続ける人の特徴
Houle のこの調査結果では、さらに、大人になってからも学習している人の特徴として、例えば、
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両親との強い絆があること
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教育年数に加え、学校の恩師や学校教育に関し肯定的やり取りがあること
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成長する過程で公共図書館を活用してきていること
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職業を変えたいと願ったこと
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学習を継続するよう他者から常に刺激を受けていた
といったことがわかっています。
小宮山さんが見た学び続ける子どもたち
自分から学び続ける教え子を何人かいました。先ほど述べたように、学校は居心地がいいと、そういう顔をしていた記憶があります。
彼ら彼女らの当時の主な居場所は、家庭、学校、塾の 3 つが主なものだったと思います。このような子どもは、親と子どもの距離が第三者から見てとても適度に保たれていました。親は過度な期待はしない。だけれども子どものことをしっかり見ている。そういう親子が多かった気がします。
また、勉強だけでなく、部活や生徒会活動など、学校でも教師やクラスメイトと良好な関係を持っていたようです。また、学校で学ぶこと以外にも興味を示していました。図書館や書店で情報を手に入れていました。
英語の教科書に出ていたビートルズが大好きになり、それをきっかけに様々な音楽に興味を持って色々調べていた子がいました。その子は結局今研究者としてずっとやっています。何か目的を持つと、集中力と粘り強さで目標に向かっていくという姿勢がとても印象的でした。
大人になってからも学ぶという人は、子どもの頃に色々な分野に自然と関心を持っていたのですね。
学習を阻害する要因
ところで、大人になってからの学習は、様々な制約や障壁というものもあります。このような学習を阻害するものの中で、最も大きな要因は何でしょうか。
実は、学習を阻害する要因として、国や調査を越えて繰り返し指摘されているのが、お金と時間なのです。
学習のための費用を自費で負担することは、経済的余裕に依存し、また学習の必要度に依存します。そして、時間については、生活や仕事の中で学習する時間を確保する必要があります。
そのため、成人の学習者にとっては、学習で得られる実益あるいは対価が明確でない場合、学習意欲は喚起されず、当初学習に参加したとしても学習は継続されず中断されることが多いのです。成人の学習者にとっては、学習するには費用対効果、対価というものも必要です。
小宮山さんの場合も、実は明確な対価もとても大事だったそうです。
内的な阻害要因
これまで述べた外的な学習を阻害する要因のほか、個人の問題として学習ができないといった内的な要因もあります。成人学習の研究では、例えば、
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学習者の自信の欠如
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特定の学習課題を継続して行うことへの自己効力感の低さ
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これまでの学校教育での否定的な経験
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教育に価値を置かない社会的集団に属していること
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自分より年齢の若い者と一緒に学習することへの心理的抵抗感
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学校に行くことが億劫
などの心理的要因が挙げられています。
社会的な課題
また、欧米の研究では、学習への参加に社会階層、つまり学歴や職業、そして人種、性別、年齢が影響しているとの仮説に立脚した研究が盛んになされています。そして、その結果から、成人学習の対象が教育での成功体験のある白人の中流階級が想定されて実施されているといった批判的指摘もなされているのです。
そのため、成人の学習への参加について、個人の問題に帰結するのではなく、社会の問題として考える必要があるとし、学習機会にアクセスすることが難しい層に対しては、どのように教育の情報と機会を提供し得るかが社会的な課題として問われているのです。
今後、日本においても、成人学習の機会均等を目指し、成人学習の機会を得ることができない人々に対し、情報提供や学習支援を行うといった、改めて学び直しの施策が必要となってくるかもしれません。
小宮山さんは塾で子どもを教えていましたが、格差という問題は避けて通ることはできませんでした。
実は、学習をめぐっての格差は、成人学習が自発性に基づくということを考えれば、成人になってからの方がより大きくなっていくと思われます。これは成人学習における大きな課題です。
補足:阻害要因の整理図(概念整理用)
簡単に整理しておくと、成人学習の阻害要因は次のように把握できます(講義内容の整理用です)。
| 区分 | 具体例(講義録+研究) |
|---|---|
| 外的・状況的 | 時間不足(仕事・家庭)、費用負担、通学距離・交通費など |
| 外的・制度的 | 開講時間・場所が合わない、入学条件や手続きの複雑さ |
| 内的・心理的 | 自信の欠如、低い自己効力感、否定的な学校経験、年齢差への抵抗感 |
| 社会構造的要因 | 学歴・職業・所得、人種・性別・年齢、階層に伴う文化資本の格差 |
