ーーーー講義録始めーーーー
「私も以前、六都の研究交流グループスタッフとして主にラボのプログラムを担当していました。ラボの存在も六都の魅力の一つであると感じています。どのような場かご紹介いただけますか」
はい、ラボは展示室の中で、観察・実験・工作といった体験を通して科学との出会いをつくるための空間です。六都の展示室は「チャレンジの部屋」「からだの部屋」「しくみの部屋」「自然の部屋」「地球の部屋」の5つに分かれており、館内には実験・工作・観察のできる4つのラボが用意されています。現在は主に「しくみラボ」「しぜんラボ」「ちきゅうラボ」で、定員や時間などを調整しながら体験プログラムを開催しています。
2020年の新型コロナウイルス感染拡大以前、展示室「からだの部屋」にある「からだラボ」は、ボランティアの皆さんが来館者とコミュニケーションをとりながら、遊びや声かけを通してあたたかく場を支えてきたと紹介されています。ラボは、展示を見るだけではなく、スタッフやボランティアとやりとりしながら、自分の手や体を動かして学べることが魅力だといえるでしょう。
平日にもラボプログラムの枠が設けられており、たとえば「しくみラボ」では「わくわく実験TIME」として、空気や磁石、音など、身近なテーマを入口にした実験の時間が案内されています。また「ちきゅうラボ」では、化石を題材にしたプログラムが組まれることもあり、「アンモナイトの化石をみてみよう」といった内容が紹介されてきました。標本を「見る」だけでなく、実物に近いかたちで「確かめる」体験ができることが、ラボの強みだと思います。
スタッフやボランティアとコミュニケーションを取りながら、科学の面白さや不思議を、標本に触れたり、手を動かす体験を通して学ぶことができる――この点にこそ、ラボの価値があると私も感じています。
「六都のボランティアについても、ご紹介いただけますか」
六都にはボランティア会があり、展示室での来館者とのコミュニケーションや、イベント・教室の運営など、館のスタッフと連携しながら幅広い活動を行っています。赤いベストを着たボランティアの皆さんが、来館者の体験を支え、科学と人を“コミュニケーションでつなぐ”存在になっていることは、六都の特徴の一つです。また、週末や長期休みには、ジュニアボランティアが活動しており、小学5年生から高校3年生までが参加する仕組みとして紹介されています。多彩なキャリアや関心が、地域の学びの場を支える力になっているといえるでしょう。
「ここからは、六都で進められている多文化共生推進プロジェクトについてお聞きしたいと思います。まずは、どのようなプロジェクトかご紹介いただけますか」
はい。六都では、多摩北部地域における在住外国人の増加を背景に、地域でともに生活する市民としての視点から、多文化共生に関わる取組を進めてきました。プロジェクトとしては2019年から2020年にかけて実施した取組が公表されており、外国人の方にとって利用しやすい科学館を目指して、地域の団体や大学等の協力を得ながら実践が進められています。背景には、オリンピック・パラリンピックを契機とした多言語対応が進む一方で、観光地ではない地域で生活者として暮らす人々に対しては、単なる「インバウンド対応」とは異なる支援の発想が必要だ、という問題意識があります。
私たちが「外国人」という言葉でひとまとめにしてしまいがちな人々の中には、国籍や言語だけでなく、家族の来歴や育ち、学び、仕事など、実に多様な背景をもつ方が含まれています。六都を含め博物館・科学館は、通常の「来館者」として迎える機会はあっても、そこから先の接点をどう広げるのかという点では、まだ課題も多かったと思います。そこで、多文化共生に関わる行政や地域の市民団体、そして大学の協力を得ながら、具体的な実践を積み重ねてきました。
「どのような取り組みが行われているのでしょうか」
例えば、日本語を母語としない人や日本語を学習中の人でも理解しやすい「やさしい日本語」を用いた取組です。六都では、2019年にスタッフ研修などの準備を進め、2020年1月にワークショップを実施し、同年2月には「やさしい日本語」ページを開設するなど、来館前・来館中の情報アクセスの改善に取り組んできました。また、中国語・韓国語のパンフレットを新たに作成するなど、やさしい日本語とあわせた情報提供の工夫も進められています。
2020年1月12日には、やさしい日本語ワークショップ「科学館の絵本をつくろう」を実施しました。参加者は科学館の中を探検したあと、iPadでデジタル絵本を作り、さらに紙の絵本も作るという内容でした。英語通訳も用意し、親子で参加できるかたちにしたことが紹介されています。
また、2021年12月5日に開催した「やさしい日本語でプラネタリウムを楽しもう」では、外国人居住者だけでなく、多文化共生に関心のある日本人も参加しました。天文スタッフがやさしい日本語について説明した後に、実際にやさしい日本語を使って季節の星空や宇宙について解説を行っています。
「やさしい日本語というものが鍵になっているように感じました。やさしい日本語について詳しく教えていただけますか」
やさしい日本語とは、日本語を母語としない人にも情報が届くように、言葉や文章をわかりやすく工夫した日本語のことです。災害時を含め、必要な情報が正確に伝わるようにするという問題意識の中で注目されてきた経緯があり、現在では防災に限らず、行政の窓口など様々な場面での活用が想定されています。
「やさしい日本語」を作成するときには、まず日本語母語話者にとってもわかりやすい文章に整えること、次に言葉をやさしく書き換えたり漢字にふりがなを付けたりして配慮すること、そして最後に日本語教師や外国人などに確認してもらい、伝わるかどうかを確かめること――こうした段階を踏むことが重要だと整理されています。また、情報を整理して簡潔にすること、外来語(カタカナ語)はできる限り避けること、曖昧な表現を多用しないこと、必要に応じてイラストや図解を使うことなども、わかりやすさを高める工夫として示されています。
一方で、科学館や博物館では専門用語をまったく使わないというわけにはいきません。だからこそ、伝えたいことを整理し、文章を簡潔にし、必要な語には説明や補助資料を添えるなど、相手の理解に合わせて調整していくことが大切になります。話すときにも、相手の理解状況に合わせながら、伝わっているかどうかを確かめる姿勢が欠かせません。
六都では、2020年2月に「やさしい日本語」ページを開設し、開館日や入館料、アクセスなどの基本情報を、やさしい日本語で届ける取組を進めてきました。加えて、休館などの重要な情報についてはSNSでもやさしい日本語を用いて発信していることが紹介されています。
日本に暮らす日本語を母語としない人々は増加しており、必要な情報が届きにくいことで科学館・博物館利用の機会が失われてしまう状況は、できる限り避けなければなりません。六都が目指しているのは、誰もが安心して参加でき、学び合い、交流できる場をつくることです。六都の取組は、今後、多文化共生に取り組む各地の地域博物館・科学館にとっても、具体的なヒントになっていくと思います。
