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【明治の広告革命】“たばこ王”村井吉兵衛とヒット商品「ヒーロー」:たば塩特別展で読む日本のたばこ産業・デザイン・販売戦略史 #放送大学講義録(博物館教育論第2回その5)

ーーーー講義録始めーーーー

 

特別展「明治のたばこ王 村井吉兵衛」

もう一例として、2020年から2021年にかけて開催された特別展「明治のたばこ王 村井吉兵衛」を紹介しています(会期は2020年10月31日〜2021年1月24日)。

展覧会の概要
「明治のたばこ王 村井吉兵衛」展では、たばこが専売制になる1904年以前に国内最大手だったたばこ業者の一つとして知られる村井兄弟商会と、その中心人物である村井吉兵衛の足跡をたどりました。たばこパッケージや看板、ポスターなど多彩な館蔵資料を中心に展示して、明治のたばこ産業を俯瞰するとともに、文書や写真資料等によって、吉兵衛がたばこ専売制施行後に銀行を足がかりに多様な事業へ展開していったことや一族の足跡をたどる展覧会でした。

ヒーローブランドの紹介
図2-5は、1894年(明治27)発売の両切たばこ「ヒーロー」です。
細かい話になりますが、紙巻きたばこには、口付(吸い口を付けたタイプ)と、両切(両端が同じで、端まで葉が詰まっている形態)のように、形態の違いがありました。少なくとも当時の宣伝合戦の文脈では「口付vs両切」の対比が意識されていたことが分かります。

村井兄弟商会は、アメリカ産葉たばこをブレンドした初の両切たばこ「ヒーロー」を発売して名声を高め、代表的なヒット商品となりました。
また、岩谷商会や千葉商店などとの競争の中で、「和vs洋」の対比も意識され、村井は「ヒーロー」のように英語名の銘柄を前面に出すなど、洋風・ハイカラなイメージで訴求したことが、当時の宣伝の特徴として語られています。

図2-5の「ヒーロー」は、当時のパッケージが中身入りの状態で今に残る貴重な資料です。両切たばこは端まで葉が詰まっているため、喫煙時に葉が口に入りやすいという欠点がありました。
そこで、この箱には当時「パイプ」と呼ばれていた厚紙製のホルダーが入れてありました。
どこかといいますと、箱の中の右端に5本のホルダーが段重ねで入れてあります。
また、箱の右の色鮮やかな「牡丹」と「丁」の花札模様を印刷したカードは、パッケージの補強を兼ねたおまけで「タバコカード」とも呼ばれています。

タバコカードの販売戦略
タバコカードを集めていた人もいたんでしょうか?
そうですね。当時、製品に“たばこカード”を添付するなど、景品(ノベルティ)を用いた宣伝活動が行われたことが知られています。
すべて買い揃えたいというコレクター心をくすぐる販売戦略といえるでしょう。
村井兄弟商会では、こうした戦略を取り入れ、花札やトランプなどの図案を用いたオリジナルのタバコカードを制作したようです。

この「ヒーロー」をはじめ、特別展「明治のたばこ王 村井吉兵衛」では、日本においてたばこ産業が、たばこのパッケージや広告ポスター、タバコカードなどのデザインや印刷技術の発展とも密接に関連してきたことを、主に当館のコレクションから展示して紹介しました。
このように、たばこに関する資料からは、産業史やデザイン史、販売戦略など様々な事柄が明らかになりますね。特別展「明治のたばこ王 村井吉兵衛」も、近代日本の産業史や実業界の一端を知るきっかけとなりました。