ーーーー講義録始めーーーー
古物営業法違反事件の法的な複雑性
印刷教材の1の「はじめに」からです。ここでは、実は記事の内容はそう難しくないかもしれませんが、法律的にはかなり複雑な問題が含まれていることになります。
売却された貴金属が盗品であるという疑いがあるのですけれども、もしそれが本当ならば、盗んだ本人は窃盗罪で処罰される、それは当然のことですぐに理解できると思いますよね。しかし、それを買い取った者まで処罰するべきなのかということですね。もし例えば本当に盗品であることに気づかないで買い取ったとすれば、少なくとも刑法上、盗品であることの認識があったのかどうかが重要な論点になり、直ちに処罰されるとは限らない、という整理になります。 ただし、ここで注意してほしいのは、盗品であるかどうか、そして盗品だと知っていたかどうか、という問題とは別に、古物営業法のような個別の行政法規では、取引の際に取引相手について一定の確認措置をとることが求められていて、その義務に違反すると処罰の対象になり得る、という点です。
またもう一つ、買い取る際に身分を確かめなかった、この点が違法とされているようですね。買い取ること自体がいつも問題なく適法だ、と言い切ってしまうと誤解が生まれますので、ここは丁寧に言い方を整えておきます。つまり、盗品だと知って買い取るかどうかという点は刑法上の問題として別に検討される一方で、古物営業法の世界では、取引相手の確認措置を怠ったことそれ自体が違反と評価され、罰則の対象になり得る、ということです。
どういう法律なのかというところがやっぱり問題ということになりますよね。刑法でいろんな犯罪を処罰するというのは比較的わかりやすい話なんですけれども、このちょっと特別な法律である古物営業法で処罰するというのはどういうことなんだろうか、ということですね。古物営業法は、盗品等の売買を防止し、犯罪の防止や被害回復の迅速化を図るために、古物営業に必要な規制を置いている法律で、その意味で行政による規制と刑事罰が結びつく典型例の一つになります。
そういうふうにいろいろ考えていくと、貴金属を盗んだ泥棒が窃盗罪で逮捕され処罰される、そういった事例はよく見かけますけれども、それとは違う特殊性がこの記事にあるということがわかるのではないでしょうか。当然だと思う人もいるかもしれませんが、行政法を初めて学ぶ人にとって、一体なぜこの経営者が逮捕されるのか、ちょっと別の言い方をすると、逮捕されるほど悪質なことをしたのか、といった点はわかりにくいかもしれませんよね。ここは、盗品だと知って買い取ったのかどうかという刑法上の問題と、古物営業法が求める確認措置を尽くしたのかどうかという行政規制違反の問題を分けて整理していくと、理解がしやすくなります。
ですので、行政法という一つの法律がある、というよりも、行政が一定の目的のために業務を規制し、その実効性確保のために罰則まで組み合わせる、そうした「行政法の領域」には特別な役割と難しさもある、ということになるわけです。そういったことを今回の授業で学んでいきたいと思います。
