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【行政法】食品、添加物等の規格基準を読み解く──豚肉63℃30分ルールの条文位置と法的根拠 #放送大学講義録(行政法第2回その4)

ーーーー講義録始めーーーー

 

具体的な規格基準の内容と法的根拠


その次は、じゃあ記事の具体的な内容を見ていきたいと思いますね。「食品、添加物等の規格基準」と呼ばれる規定がありますね。これも非常に膨大な規定がありますので、豚肉の調理に関係する規定だけを紹介すると、この規格基準の中に、「第1 食品」の「B 食品一般の製造、加工及び調理基準」というところがありまして、そこの―難しいんですけども―**「9」という項目の中に、牛の肝臓や豚の食肉について、販売のされ方や製造・加工・調理のされ方に応じたルールが置かれているんですね。
そこを見ていくと、まず、牛の肝臓又は豚の食肉は、飲食に供する際に加熱を要するものとして販売の用に供されなければならない、つまり「加熱が必要なものとして扱ってください」というルールが出てきます。そして、牛の肝臓や豚の食肉を直接一般消費者に販売する場合には、販売者は、中心部まで十分な加熱を要する、といった必要な情報を一般消費者に提供しなければならない、とされていますね。
さらに、販売者が、直接一般消費者に販売することを目的に、牛の肝臓又は豚の食肉を使用して食品を製造、加工又は調理する場合には、その工程中において、中心部の温度を63℃で30分間以上加熱するか、又はこれと同等以上の殺菌効果を有する方法で加熱殺菌しなければならない、という形で、より具体的な加熱基準が書かれているわけです。
ただしここは、「一般消費者が飲食に供する際に加熱することを前提として当該食品を販売する場合」など、例外も置かれていまして、その場合には、販売者が、一般消費者に対して中心部まで十分な加熱を要する等の必要な情報を提供しなければならない、という構造になっていますね。つまり、ここは「いつでも一律に63℃30分」ではなくて、販売や提供のされ方に応じて、加熱義務と情報提供義務が組み合わされている、というのがポイントになります。
ですので、新聞記事で言及された「中心温度63℃で30分以上」あるいは「同等以上」というルールは、この「食品、添加物等の規格基準」の中で、こういう形で位置づけられている、ということになりますね。
そして、法的根拠ですね。食品衛生法がまずあって、その食品衛生法13条に基づいて定められた基準―
厚生労働省が公表する「食品、添加物等の規格基準」(告示)**の中に、こういった加熱や情報提供に関するルールが定められている、ということになるわけです。
法的根拠ということになりますね。こういった法律の根拠の確認ですけれども、大事ですので、根拠を確認するという姿勢は忘れないでください。

 

規制の正当性と憲法上の限界


それで、以上のようなストーリーなのですが、この記事を読んで疑問を持った読者ももしかしたらいるかもしれませんね。食中毒を防ぐのは確かに大事なんだけれども、自分の好物ですね、自分の好きな食べ物が、こうやって規制されて食べることができなくなるというのは、本当に良くないことじゃないかと、そういうふうに考える人もいるかもしれませんね。
特に、そういった看板メニューとして豚の生肉料理を提供している飲食店にとっては、売り上げが減ってしまうと、営業上の損害だとも言えるわけですよね。ですので、それを禁止することは正当化されるのか、そういう疑問が出てくるわけです。
受講生は、食中毒のリスクがあるでしょう、禁止すべきだと、そういうふうに考えるのではないでしょうか。私もどちらかというと同じ考えなんですね。ただ、これが唯一の答えというわけではないんですね。
もちろん、その食中毒のリスクが非常に高いということであれば、規制する必要がありますが、絶対規制しないといけないということになるかもしれませんが、リスクが低いということであれば、それは消費者の選択に任せても良いのではないか、という議論も成り立つんですよね。
結局のところ、人々の好み・嗜好を尊重して規制緩和するのか、それともリスク回避を重視して積極的に規制するのかということで、前回でも出た規制緩和の問題がここでも出てくるわけですね。
最近の風潮としては、リスクよりも規制を強化すべき、特に安全と健康面に関することは規制を強化すべきであるという、そういう風潮があると思います。望ましいことだと思いますが、人々のリスクに対する意識が高く、より安全な対策が強化されているということになります。
新型コロナウイルスの問題も例にしてみると、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために、より強い規制を導入すべきだと、人々の自由よりも制限すべきだという意見が強まった局面があった、そういう状況がありましたね。
そのように、健康や生命を守るために規制を強化する、そういう流れが最近根強いのではないでしょうか。ただ、正解があるわけではないので、また時代が変わると、規制緩和すべきだと、そういう声が強まるかもしれませんよね。
今回問題になった豚肉の生食禁止について、厚労省の説明によると、豚のお肉や内臓を生で食べるとE型肝炎ウイルスや食中毒菌による重い食中毒が発生する危険がある、ということなんですね。そして、ここが大事なんですが、厚労省は「『新鮮』かどうかは、関係ありません」と明確に言っています。新鮮であっても関係なく、中心部まで十分に加熱して食べましょう、というわけですね。だからこそ、生食用としての販売・提供を禁止した、という説明になっているわけです。

 

図表(講義用:条文・告示・義務の対応)

 

レベル 何が書かれるか この講義での位置づけ
法律(食品衛生法) 規格・基準を定める根拠(委任)など 13条を根拠に、基準(告示)で技術的内容を具体化する、という理解の土台
告示(食品、添加物等の規格基準) 個別の具体的基準(加熱・情報提供等) 第1 食品/B「9」で、豚の食肉(+牛レバー)について「加熱を要するものとしての販売」「情報提供」「製造等の工程での63℃30分(同等以上)」等を規定 
厚労省の周知(一般向け) 規制趣旨(危険性の説明・誤解の是正) 「新鮮かどうかは関係ない」「中心部まで加熱」等