ーーーー講義録始めーーーー
規制行政の特徴と仕組み―まとめ
それでは、規制行政の特徴と仕組みを見ていきたいと思いますね。今回、食品衛生法の仕組みを見てきましたが、さらに古物営業法、質屋営業法も学んできましたが、こういった法律を元にして、規制行政の特徴と仕組みについて、さらに説明していきたいと思います。
(1) 基本的人権との関係
まずは、基本的人権との関係ということになります。規制行政は、当たり前ですがその通り、人々の自由を規制する・制限する法律ですので、当然、憲法に基づく限界があるのだと。日本国憲法は各種の基本的人権を定めているので、法律の内容や規制がかなり厳しいものであれば、当然憲法違反になる可能性がある、ということになります。
ただ、憲法も基本的人権には制約を認めていますので、公共の福祉による制約が、逆に言うと正当化されるのかという、そういう問題でもあるわけですね。
どういう場合に規制が厳しすぎるとして憲法違反になるのか。これは膨大な学説や判例がありまして、詳しくそれを見ていく必要があるんですが、概観すると、人権の性質や規制態様に応じて、審査の強さが動くという整理がよくされます。例えば、精神的自由のように民主政の基礎に関わる領域ではより厳格に、経済的自由の領域では比較的緩やかに、といった説明がされることがあります(いわゆる二重の基準の考え方ですね)。
実際に、この豚肉の生食禁止について考えてみると、飲食店や消費者にもたらす不利益の程度ということになりますね。どれだけ規制を受ける側が不利益を受けるのかということになりますね。
次としては、その目的ですね。規制することによって達成される目的の重要性ということになりますけど、この場合には、公衆衛生の観点から食中毒を防止し、国民の健康を守るということになります。その目的が重要かどうかということになりますが、これも一般的に非常に重要だと皆さん感じるのではないでしょうか。
さらに、その規制の必要性を支える客観的なデータ・客観的な根拠の問題になりまして、この場合には、豚肉の生食による健康被害の状況ですね。どれだけの件数が起きて、実際にどれだけの人が被害を受けているのか、症状が重いか重くないかとか、そういった点も含めて総合的に考慮するということになります。
基本的には、目的の重要性、手段の相当性、そして過度になっていないか、必要性・均衡があるか、といった観点を総合して、憲法に適合するかどうかを判断していく、ということになりますね。
で、実際に、その豚肉の生食禁止に関する裁判で、何か裁判が提起されたという事例は聞きませんので、推測するしかないのですが、という言い方をすると断定が強くなってしまいますね。この場では訴訟例の有無を確認する資料を用意できていないので、一般論として枠組みを当てはめて考える、ということにしたいと思います。
そのうえで推測するしかないのですが、おそらく、裁判所が判断するとすれば、まず、飲食店の売り上げが減るといった損害とか、好きなものが食べられなくなるといった消費者の不利益の内容・程度。次としては、国民の健康を守る目的の重要性。さらに、客観的根拠に支えられた必要性があるか、といった点を総合して判断していく、ということになるでしょう。
(2) 法律の留保
その次は、法律の留保について説明したいと思います。法律の留保、これもちょっと専門用語なんですけれども、簡単に言うと、規制行政を実施する際には法律の根拠が必要ですよ、国会が法律を定めて、行政庁に対して、これこれこういう場合には規制権限を行使していいですよという承認を与えるということになるわけです。これが法律の根拠の意味になります。
ですので、飲食店営業のように人々の権利を制限したり義務を課したりする場合には、法律を制定して、そのルールに基づいて行政処分等を行うことが要請されるのだということになるわけです。法律がない、法律の根拠がない場合には、規制行政を実施できない、という方向で整理されます。
法律の留保ということで、これは古典的な原則で、今では当たり前に思えるかもしれませんね。ただ、歴史的には、この法律の留保の確立って非常に重要なことだったんですね。
また、法律が定められた以上は、当然ですが、行政はそれに従わないといけないわけで、これはしばしば「法律による行政」と言われます。さらに、より広い原理として「法治主義」という言い方がされることもあります。ただ、用語は文脈により射程がずれるので、「全部同じ意味」と断定するより、近い関係にある概念として整理しておくのが安全です。
規制行政には法律が必要となることは、今日では当たり前のことだと思いますよね。しかし、歴史的には重要だったということになります。
ただ、法律の留保に関していろんな学説があるのですけれども、ちょっと複雑な話になりますので、詳しくは今回ちょっと紹介しないんですが、実際上は、学説上、代表的な整理として、侵害留保説、社会留保説、権力留保説、重要事項留保説などが提示されています。
このうち侵害留保説というのは、人々の自由や権利を制限したり義務を課したりする行政、つまり侵害的な行政については、法律の根拠が必要という考え方です。
ただし逆に言うと、人々の自由を制限しない給付行政であれば、法律の根拠は要らない、と単純に言い切れるかというと、そこは議論が分かれます。給付行政でも法律の根拠を要する場面が広いとする考え方も整理されていますし、行政の重要事項について法律の根拠を求める考え方もあります。ですので、ここは「侵害的作用では法律根拠を要求する方向が強いが、給付行政も含めてどこまで法律根拠を要するかは学説上争いがある」と理解するのがよいでしょう。
ただ、ということなんですが、いろんな批判がされてるわけで、というのは、この民主主義ですね、国民が自ら決めるという民主主義の観点からは、法律で可能な限り行政庁の活動を縛ることが望ましいと、そういう考え方があるわけです。
が、今度は権力分立の観点から、適切な役割分担というのも大事なので、行政に自由な行動の余地・活動の余地を認めたほうがいいという、そういう議論もあるんですね。
ですから、この場合で、民主主義を重視するのか、それとも権力分立とか行政の効率性を重視するのかによって、ちょっと結論が変わってくる。出てきたような問題にも、唯一の正解があるわけではないということは覚えておいてほしいと思います。
| まとめの観点 | 規制行政でチェックする中身 | この講義での言い方(目安) |
|---|---|---|
| 憲法上の限界 | 目的の重要性/手段の相当性/必要性・均衡(過度でないか) | 権利の性質により審査の強さが変わり得る(例:二重の基準) |
| 法律の留保 | 権利制限・義務付けには法律根拠を要求する方向が強い | 学説:侵害留保説ほか複数説、どこまで要求するかは争い |
| 法治主義との関係 | 行政は法律に従う(法律による行政)+より広い原理(法治主義) | 用語は近いが射程が同一とは限らない |
